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今日も張ってるなぁ。ご苦労な事だ。



マンション入り口から少し離れた所に停車している車を確認する。

カツカツとヒールの音を鳴らしながらその車の前を素通りする。

くるくると巻いた髪に赤いルージュと大きなサングラス。

私は以前、一弥の所に来た時と同じような変装をしていた。

今日は一人で隼人もいない。

今の私に写真を撮る価値はない。

なんの心配もなくマンションのエントランスに入る。



ピンポーン・・・・



部屋番号を押してインターホンを鳴らすが返事はない。

まだ帰って来ていないのか。

スケジュールでは今日の仕事は21時までだったから、すぐに帰宅していれば30分くらいで家に戻るはずだ。

22時の今現在ここにいないということは、どこかに立ち寄っているのかもしれない。


キーを機械に通してエントランスのドアを開ける。


防犯上どうかとは思うが、スペアキーを預けてくれたかずさんに感謝だ。

そのままエレベーターに乗って一弥の部屋へ。

なかに入って少し、訝しむ。

廊下の先・・・・・・・・リビングの扉についたガラス部分の向こう側がほんのり明るい。

電気を消し忘れたのだろうか?



「酒くさっ!!」



扉を開けた瞬間漂ってきた淀んだ空気と酒の臭いに顔を顰める。

と同時に、部屋の惨状に唖然とした。

そこら中に転がるビールの瓶に缶にワインボトルにカップ酒。

それらに囲まれたままギョッとした表情でこちらを見ている家主。



「ゆいちゃ・・・・・・・?」



ふらりと立ち上がった一弥が手に持っていた酒瓶を落っことす。

・・・・今落ちたのウィスキーじゃ・・・・。

溢れる酒を気にする暇もなく、ガシャガシャとものすごい音を立てて走ってくる一弥に気圧される。

気圧されたまま動けなかった私は、まるでタックルのような勢いで一弥に抱きつかれた。



「唯ちゃん!!本物!!??夢!?あぁ、でもどっちでもいいや、唯ちゃんが帰って来てくれれば。」



混乱しているのか興奮しているのか、ベラベラ喋りながらぎゅうぎゅう万力のように締め付けられる。



・・・・・・・・心配、かけたな。



私だって知り合いが突然音信不通になったら心配する。

・・・・・・・・それが好きな相手なら尚更だろう。



いつもの余裕もなく、必死な様子の一弥に申し訳なく思う。


が、


苦しい・・・・締め付けすぎ。それに・・・・




「酒くさい!!今すぐ離れろっ!!!!!」



広いリビングに私の怒号が響いた。













役に立たない酔っ払いにソファーから動かないように厳命して、せっせと先ほど溢れたウィスキーを拭く。

開けられるだけ窓は開けたが、なかなか酒の臭いが抜けない。

空気を吸うだけで酔いそうだ。

ゴミ袋もない家なので、買って来た時に使っていたであろうコンビニのビニール袋に洗って潰した缶を放り込んでいく。



・・・・・・・・話をしに来たはずなのに何をやっているんだ私は。



恨みがましく一弥を見ると、蕩けそうなうっとりとした顔でこちらを見ていて、思わず目を逸らした。

背中にゾクゾクしたものが這い上がる。


・・・・・・・・悪寒?


無理矢理意識を逸らすように手元の缶を見る。

潰しても潰しても減らない。

・・・・1日2日で呑める量じゃない。

さっきはウィスキー直飲みしてたし、一体いつからこんな生活してたんだか・・・・。

間接照明だけがつけられた薄暗い部屋で、目を見開いてこちらを見ていた姿を思い出す。

かずさんの言っていた“荒れてる”とはこのことか。

以前考えていた最悪のパターンを思い出す。

華穂様に心の闇から救って貰えなかったら、酒やクスリや女に溺れて遠からず自滅していくのではないかと。

・・・・・・・・今の状況を見るとその予想も間違ってない気がする。

かずさんの手紙には特に書いていなかったから仕事には行っていたのだろうが、浴びるほど飲んで支障はなかったのだろうか。


ほっとけないなぁ・・・・・・・・。


攻略対象者の中で一弥が一番いつの間にか死んでてもおかしくない気がする。

それくらい一弥は危うい。


今、私が心配すべきは華穂様のことなのに。

そうさせてくれなそうな一弥にため息が出た。

次回は拍手お礼交換です。

内容は本編関係なしの季節ものの予定です。

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