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流が、帰ってこない。



流が会社に行ってから数日、『落ち着いたら連絡する』と言っていた流からの連絡はまだ来ていない。

流がなぜ急に出ていかなければならなくなったのかは翌日のネットニュースで知った。


・・・・・・・・想定外なことばかり起きて頭が痛くなる。

まさか頼りにしていた流の動きが封じられるとは。

一瞬、“流を頼っているのがバレて潰しにきたのかも!?”と思ったりもしたが、買収なんてたった数日で準備出来るものではない。

以前から準備されていたもののはずだ。


・・・・・・・・たぶん、流はかなり分が悪い。


源一郎様がラスボスだとわかっていたから、私なりにこの一年源一郎様については調べていた。

人格的に問題はあるが、経営手腕は申し分ない。

むしろあの人格で一部腐った経営陣を抱えたまま、あの巨大財閥を拡大させることができるのだからかなりのやり手だ。

その源一郎様の獲物ターゲットに選ばれた・・・・。

こういうものはギリギリまで水面下で進めるものだ。源一郎様の動きが表面化した時点で、おそらく王手。

流は首の皮一枚のところで、なんとかしようと奮闘しているのだろう。


流には頼れない。


流には流の背負うべきものがある。

私も執事として、自分の職務をまっとうせねば。

それにきっと華穂様の方の事態が動けば、流の助けになる。

今まで助けてもらったぶん、私も少しでも流の助けにならねば。


幸い、流は自分が対応にかかりきりになるのを見越して宗純に私のことをまかせていった。

そのおかげで毎日調査の進捗は入ってくる。

・・・・・・・・あまり芳しい結果ではないが。


緻密な調査の結果、裕一郎様は僅かだが痕跡を残していて、それを追っていくとどうも国境を越えたようだ。

そこまではわかったのだが、そこから追跡できていない。


空太は相変わらず行方不明。


病院に関しては叩けばいろいろ問題が出て来そうなのだが、なんの件で源一郎様と繋がっているのか特定できていない。



パサリッと渇いた紙の音を立てて封筒を開ける。

中には先日、本田さんに頼んだ買い物の結果・・が入っている。

予想以上の結果だ。

若干、顔がひきつるようなことも書いてあったが。

私は封筒をバッグに入れて家を出た。






本田さんに頼んだ買い物・・・・。

それは一弥のマネージャーであるかずさんへの贈り物だった。

もっとも本題はその贈り物に添えた手紙にあるのだが。

こちらの居場所が源一郎様にバレずに且つ、確実に一弥へ連絡を取る方法として思いついたのが本田さんに連絡役になってもらうことだった。

ただし、直接連絡は取れない。

一弥はトップ歌手だ。

普通ならそうそう会える人物ではないし、プレゼントや手紙も事務所が管理してその手に渡るのには数ヶ月かかるだろう。

そこで、白羽の矢を立てたのがかずさんだ。

かずさんは私のことを知っているし、かずさんなら一弥に会うよりハードルは低い。

案の定、本田さんに『本人受け取りの贈り物を届けに行きたい』と事務所に電話してもらったらあっさりOKが出た。

そこで私は手紙を書き、本田さんがその手紙と贈り物をかずさんに届けて、返事をもらってきてくれた。

こちらの事情を話すわけにはいかないので手紙には『一弥にサプライズを仕掛けたいので、スケジュールを教えて欲しい』と書いた。

私本人かどうか怪しまれないようにクリスマスのお礼の言葉も添えて。


かずさんからきた返事はこうだった。




『プレゼントありがとうございます。


お久しぶりです。


平岡さんから連絡がくるなんて驚きました。

最近、一弥があなたと連絡が取れないと荒れていたので、何かあったのかと心配していました。

これもサプライズのための演出なんですね。

ホッとしました。

一弥のスケジュールを送ります。

それと、一弥のマンションのスペアキーも。

仕事以外でも最近あちこち出かけてるみたいなので、もし家にいなかった場合はこれで中に入ってください。

あいつ、すごく喜ぶと思うので早めのサプライズ決行をお願いします。


何か気になることがあればこちらの番号に連絡ください。』




・・・・・・・・・・・・・・・・。



荒れて・・・・心配・・・・。

想定外なところにまで迷惑を・・・・っ!!


手紙では一言しか書いていないが、以前会った時の一弥の社長やかずさんへの態度を考えると、だいぶ大変な目にかずさんはあったのではないかと思う。

どうしようもなかったとはいえ、申し訳ない・・・・。




こうしてかずさんの協力のおかげでスケジュールとスペアキーを手に入れた私は、一弥の所に向かうのだった。



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