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一瞬、頭が真っ白になった。
“お前の恋人はわしの手の内にある”
お祖父様の言葉がうまく飲み込めなくて、思わず聞き返しそうになるのを慌てて止める。
ここで動揺しちゃダメ。
ここでお祖父様のペースにハマったら、さっきまでのことが全部無駄になる!!
平常心平常心、しっかり猫をかぶり直さなくっちゃ!!!
「恋人?わたくしの恋人とお祖父様はお会いしたことがないと思いますが・・・・」
動揺を悟られないように、わざと顔を顰めて訝しむ。
「確かに会うたことはないな。
じゃがな、わしは何事も用意周到に準備して、目的を達成することが出来る目処が立ってから動くことにしておる。
もちろん槙嶋買収の件も。
お前のことは秀介にやる約束だったからな。
恋人の有無くらい調べておる。
結婚を控えた娘の周りをうろちょろされては面倒だからな。
少し念入りに、お前の母のように自ら身を引くよう説得しておる最中だ。」
お祖父ちゃんの言ってることは本当かどうかわからない。
わたしを折れさせるための嘘なのか、それとも本当に空太も監禁してるのか・・・・。
ここでどれだけ考えたって、本当のことはわからない。
“何かあった時は最悪な事態を想定する”
経営学でもマナーでも口を酸っぱくして言われた言葉。
今のわたしのとっての最悪は空太がお祖父ちゃんに捕まってて危害を加えられること。
それを防ぐ一番簡単な方法はお祖父様に従うこと・・・・。
違う!最悪はそれじゃない!!
スッと息を深く吸い込んで姿勢を正す。
ただまっすぐ、自分の大切なもののために前を向いて。
「・・・・・・・・わたくしにはお祖父様のおっしゃることの真偽を確認する術がございません。
けれど、もしお祖父様の仰ることが本当であるとすれば、ますますわたくしはお祖父様に従うわけにはまいりません。」
「ほぉ、恋人を見捨てるか。」
面白そうなお祖父ちゃんの顔に腹がたつ。
平常心平常心。
「空太になにかをすれば地獄を見るのはお祖父様です。
まず、空太は高良田家とは血縁関係もなにもない人物です。
お父様の失踪に関しては身内だからとなにも言いませんでしたが、空太を監禁しているのならばお祖父様は完全な犯罪者です。
警察に行きます。
警察に行っても握り潰しますか?
・・・・・・・・そこまでお祖父様が悪辣だとは思いたくないのですが。」
お祖父様は笑ったままなにも言わない。
「お祖父様は人を貶め、罪を重ね、その罪をもみ消す。
そのような方が財閥のトップに相応しいと?
確かにビジネスには冷徹な判断も時には必要です。
けれどトップが犯罪者だなんて、言語道断です。
会社のためならなにをしてもいいんですか?
最近は悪い話はSNSであっという間に広がります。
もしお祖父様の行いが世に知られれば、あっという間に会社は窮地に陥ります。
そんなリスクを会社に背負わせるわけにはいきません。
お祖父様の会社への復帰は断固阻止します!」
自分の意思を伝えるようにお祖父様じっと見つめる。
一年間の勉強を通して、お父さんがどれだけ大きなものを背負っているのか知った。
お父さんの話で、お母さんがそんなお父さん頑張りを応援するために身を引いたことを知った。
今の会社は、ご先祖様はもちろんお父さんとお母さんが守ってきたもの。
わたしはそれを守りたい。お父さんとの約束も。
さっきお祖父ちゃんは“説得してる最中”だって言ってた。
つまり、空太はまだわたしとの未来を諦めてない。
だったら、わたしが勝手に諦めるわけにはいかない。
・・・・・・・・お父さんみたいなおもいを空太にはさせない。
それにわたしはお母さんみたいに強くないから、きっと空太がいない未来に耐えられない。
わたしにとっての『最悪』は『空太を諦める』こと。
「お祖父様が空太になにをしようと、わたくしがお祖父様の言いなりになることはありません。
もしお祖父様が空太に酷いことをなさるのでしたら、わたくしも同じ目にあいます。
空太とは将来を誓い合いました。
夫と苦楽を共にするのも妻の務めです。」
きっぱりと言い切るとふっとお祖父様の口元が緩んだ。
「本当にわしによう似ておる。
お前の恋人の件は検討しておいてやる。
わしも譲歩するのだ。
お前は何を譲歩する?」
試すような問いに即座に返す。
「何も譲歩しません!わたくしが要求しているのは必要最低限のものです!」
ぜーんぶ書き終わって保存をするタイミングでなぜか開いてるページだけフリーズ。
なんとか元に戻らないかと悪戦苦闘しましたが結局ダメで半分以上書き直しに。
そして書き直したらなんだかしっくりこない・・・。
思いつきとその場の勢いで書いてるから大筋は一緒でも同じ文章にならないんですかね?(==
書いては消し書いては消し・・・・
もっと一文字一文字吟味しろってことかなぁ。




