227
「・・・・なにか進展はありましたか?」
持っていた箸を置き、向かいに座る流に問いかける。
流の元に身を寄せてから早3日。
今は仕事から戻った流と夕食を食べている。
流も宗純も全力で調べてくれてる。
現状、できることがない私は大人しく結果を待つしかないのはわかっているのに、つい気が急いてしまう。
「流石に高良田財閥だな。
なかなか尻尾が掴めん。
桜井が仕事の後、黒の乗用車に乗って店から出たところまではわかったが・・・・。」
「そうですか・・・・・・。」
つまり空太は源一郎様が姿をみせられたその日の夜に行方不明になったということか。
「華穂が言っていた三条病院の件の報告は、今の所花柳からは来ていない。」
「はい・・・。ありがとうございます。」
・・・・・・・・まだ3日。
三条病院に関してはまだ調べ始めたばかりだ。
結果を求めるのが性急すぎるのはわかっている。
けれども、それがわかっていてもどうしても落胆してしまう。
私の落胆が伝わったのか、流が微妙な表情をする。
流にしては珍しく迷っているような・・・なにかを躊躇っている?
「どうかなさいました?」
私の問いに視線を合わせることもなく、眉間にシワを寄せたまま口を真一文字に結んだり緩めたりしている。
「・・・・・・・流様?」
私の訝しむような声に、流は観念したような表情になった。
「・・・・・・・・高良田社長の監禁されていた場所はわかった。」
「本当ですか!?」
驚きのあまり勢いよく立ち上がったら、すごい音を立てて椅子が倒れた。
それすら気にせず詰め寄るように流に顔を近づける。
「落ち着け。・・・・・・・・場所はわかったが本人は見つかっていない。」
今度は私の眉間にシワが寄る。
「・・・・どういうことですか?」
「どうやら高良田社長は自力で脱出したらしい。
監禁されていた廃屋内には切られたロープが落ちていて、鍵は中から破られていたそうだ。」
「そんな・・・・じゃあどこに・・・・っ」
すっと顔から血の気が引いていく。
ゲーム内ではどこにある廃屋とは言及されなかったが、確かに『廃屋に監禁されていた高良田社長を助け出した』という流のセリフがあったはずだ。
その廃屋から裕一郎様がいなくなった・・・・・・・・?
「わからん。廃屋からの足取りを今調べさせている。
本人が再び捕まることを警戒してどこかに潜んでいるのか、再度捕まってどこか違う場所に監禁されているのか・・・・・・・・。」
どうしよう・・・・。裕一郎様になにかあったら・・・・!!!
体がカタカタと震え始める。
ゲームの知識がある分、華穂様にも裕一郎様にも命の危険はないと思っていた。
まさかこんなところでイレギュラーが起こるなんて・・・・!!
「唯!」
パチンッ
叩かれるような勢いで両手で頬を挟まれる。
軽い痛みと流の手のひらの暖かさに我にかえる。
「落ち着けと言っている。
高良田社長が監禁されていたのは、まだ高良田社長に利用価値があるからだ。
花柳もうちの人間も、そして恐らく高良田家の者も大勢の人間が高良田社長を探している。
何かあればすぐに明るみに出る。
捕まっていれば安全だし、捕まっていなければ上手く隠れているはずだ。
どちらに転んでも悪いことではない。
俺はお前に華穂も桜井も高良田社長も救い出すと約束した。
必ず高良田社長の無事な姿を見せてやる。
俺を信じろ。」
間近で真っ直ぐな瞳に射抜かれる。
一点の曇りもない、自分の言ったことを必ず実行出来ると信じている瞳。
心が落ち着いていく。
私の変化がわかったのか、流の顔に柔らかい笑みが浮かぶ。
「それでいい。
流石に今の状況で笑えとは言わないが、不安になることはない。
お前の不安は全て俺が取り除いてやる。
だからお前はここで穏やかに」
ピリリリリリ ピリリリリリリ
流の言葉を遮るように、携帯が鳴る。
発生源は流の物だ。
「・・・・会社からだ。」
名残惜しそうに頬をひと撫でして離れた手に、今更ながらドキドキする。
「こんな時間にどうした?」
話を聞かれても構わないのか、流は目の前で電話で話し始める。
それを見ていても仕方ないので、私は倒してしまったイスを戻そうと席に戻る。
「なんだと!?」
突然の怒声に流の方を見る。
流は見たこともないような厳しい顔で会話をしていた。
「・・・・・・・・あぁ、とりあえずはそれでいい。
俺が戻るまでにあいつらを招集しておけ。
・・・・・・・あぁ、すぐ戻る。」
電話を切った後も、流の厳しい顔は変わらない。
「すまん、すぐに会社に戻る。
恐らく今日は帰れない。
・・・・・・・・もしかしたら、数日は泊まり込みになるかもしれん。
詳しいことは落ち着いたら連絡する。」
明らかに何かあった様子に、また不安になる。
「そんな顔をするな。
大丈夫だ。
・・・・・・・・俺を送り出す時は笑顔でいてほしい。」
その言葉に無理にでも笑顔を作る。
流は私の頭を撫でると、あっという間に出て行った。




