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華穂視点。
「失礼いたします。先生、華穂様がいらっしゃいました。」
「入りなさい。」
宗純先生の声に、お弟子さんが障子を開けてくれる。
「失礼します。」
一礼してから、宗純先生の正面に座る。
「先週、先々週とこちらの都合で休みにしてしまい申し訳ありませんでした。」
「いえ、ニューヨークでの展示会、お疲れ様でした。
大変盛況だったと聞いてます。」
宗純先生は一昨日までニューヨークで大きな展示会を開いてて日本にいなかった。
だから宗純先生に会うのはちょっと久しぶり。
「ありがとうございます。
これも皆さんの協力のおかげです。
裕一郎さんにも協力していただきました。
出張からお戻りになられたら、直接お礼に参ります。」
お父さんの名前に微かに肩が震える。
「・・・・ありがとうございます。父も喜ぶと思います。」
動揺が顔に出ないように頑張って笑顔を作る。
「そういえば今日は平岡さんはお休みだそうですね。」
最後に会った時の唯さんの顔が思い浮かぶ。
唯さんがいなくなってから丸一日過ぎた。
もちろん連絡なんてない。
もしあったとしても、わたしがそれを受け取れない。
「はい・・・・。唯さんは、えっと、しばらく大切な用事があってこれないんです。」
「なるほど。それで今日は別の方ときたんですか?」
「はい・・・・。ひとりでも大丈夫だって言ったんですけど、心配性で・・・・。」
心配なんて嘘。
ただ見張られてるだけ。
わたしがひとりで宗純先生のところに指導してもらいに行くのをおじいちゃんは許してくれなかった。
だから今日初めて会った見知らぬお手伝いさん?と一緒に宗純先生のお屋敷に来てる。
きっとまだ逃げるとか思われてるんだよね。
『付き添いの方は部屋の外でお待ちを』って言ってくれなかったら、障子の前で待つんじゃなくて部屋の隅にでも座ってたんだろうなぁ。
「そうですか。では、そろそろ始めましょうか。」
道具を広げて準備をする。
今日は指定の花を使った自由制作。
花を手に取るけど、いつもだったらすぐに浮かんでくるイメージがなぁんにも浮かんでこない。
取り敢えず花を手にとっていけていく。
あはっ・・・・、やっぱり全然まとまらない・・・・。
いつも上手いとは思ってないけど、いつもよりもっとグチャグチャで、自分の心がどれだけグチャグチャになってるか思い知らされて泣きそうになる。
「手元が乱れていますね。」
「すみませっ・・・・」
後ろから覆うように手を取られて、思わず固まる。
(平岡さんから話は聞いています)
「えっ!?」
耳元で囁かれた言葉に、まじまじと宗純先生をみる。
(声は立てずにお聞きなさい。
昨晩、平岡さんから連絡がありました)
「この花はこちらを向けたほうが生きてきます。」
「はっ、はい!」
(彼女は今、槙嶋様のところにいます。
裕一郎さんの状況も源一郎様のことも全て聞いています。
裕一郎さんのことは私と槙嶋様の伝手を使って探しています)
「それからここは・・・・」
「あ、ほんとだ!すごく良くなりましたね。ありがとうございます!」
はっきり言えないから、指導への感謝に見せてお礼を言う。
(なにか平岡さんに伝えることはありますか)
「宗純先生、ここはこっちの方がいいですか?」
「そうですね。そちらがいいでしょう。」
(近いうちに開かれる緊急取締役会でお父さんが解任されます。
その時に、私と秀介さんの婚約が発表されます)
耳元で宗純先生が息を飲む気配を感じる。
「やっぱりダメですね。どうしても思い通りにいかない。
でも、諦めません!なんとか綺麗に見えるようにして見せます!!」
「形に囚われるのはまだまだ未熟な証です。」
「う・・・・っ、気をつけます。」
(おじいちゃんが秀介さんは病院を守るためにおじいちゃんに協力してるようなことを言ってました。
おじちゃんへの協力がなんで病院を守る事に繋がるのかわかれば、秀介さんを味方にできるかもしれません)
「わかればいいです。普段の私の指導が伝わってないのかと目眩がするかと思いました。」
「だ、大丈夫です!!ちゃんと全部しっかり伝わってますから、宗純先生も気になることがあったらばんばん伝えてください!」
「口だけではなく、作品で示してください。」
「う・・・・っ、はい・・・・」
宗純先生の温もりが背中から離れる。
唯さんからの伝言もわたしからも伝えることもしっかりやりとりできた。
「先生、ご指導ありがとうございます。」
「仕事ですから。
それに高良田家には大変お世話になっています。
私の技術で伝えることがあればいくらでも伝えましょう。」
わたしが心を込めて頭を下げると、宗純先生はいつも通りの無表情・・・・だけど、いつもより真剣な眼差しで頷いてくれた。
宗純、久しぶりすぎて口調忘れました・・・・。
取り敢えず違和感なく(!?)登場させられて一安心。
次回更新は拍手予定です。




