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源一郎様が現れてから5日、事態は変わらなかった。

いや、むしろ悪化している。


まずは屋敷内に知らない使用人が増えた。

立ち居振る舞いはしっかりしているので秀介が三条家から連れてきたのかもしれない。

元々いた使用人達が解雇されているわけではないが、突然増えた見知らぬ同僚と厳格な主人の帰還にいつもの穏やかな空気は鳴りを潜め、緊張した重苦しい空気が漂っている。


華穂様はレッスン以外は部屋に軟禁状態だ。

ドアの前には警備という名目の新顔の監視員が置かれ華穂様が逃げ出さないように、そして許可された者以外が華穂様に接触しないように見張っている。


私の方の状況も芳しくない。

源一郎様が現れた当日に華穂様から引き離され、源一郎様付きになった。

自室も源一郎様の隣の部屋に移動。

秀介はずいぶん私を買ってくれて、源一郎様にいろいろと吹き込んでくれたらしい。

仕事用の携帯も取り上げられ(かわりにアドレス帳が真っさらな新品の携帯を支給)、『しばらく外出の予定はない。必要なものは全て買い与える』といわれ、財布はおろか元の部屋から私物を一切持ってくることができなかった。

唯一手元に来たのは仕事用の着替えが数着。

それも移動させたのは里美さんという、一切私を部屋に入れない徹底ぶり。

おかげで予備の携帯や盗聴器、護身用の警棒等、このラストイベントのために準備していたいろいろ役に立つものが全く使えない状態だ。

夜中に運び出せないかとこっそり部屋に行ってみたが、しっかり鍵がかかって封じられていた。

1人になれる時間も少ない。

基本的には里美さんとセットでの行動で、里美さんがいない時も源一郎様の側での仕事。

新しい自室にいる時以外は、監視されているようなものだ。


私も華穂様も全く身動きが取れない5日間だった。







・・・・・・・・おかしい。

いくら何でも助けが来ていいはずだ。



源一郎様の着替えを準備しながら考える。



ゲームのストーリー通りに行けば、華穂様と連絡が取れないことを不審に思った空太が軟禁3日目で助けに来るはずだった。

それが5日も現れない。

そもそもゲームと違い空太は邸に泊まるはずだった。

1日目で異常に気づいたはずだ。

なのになぜ・・・・・・・・。

何か起こっているかもしれないのに、それを確かめる術がない。



・・・・・・・・やるしかないか。



現状で確かめられないのなら、確かめられるようにするまでだ。








「よしっ。」



紐の強度と結び目をしっかり確認する。


警備の確認の関係上、高良田邸の作りは熟知している。

どこから侵入しやすく、どこから死角になるのかも。

警備の配置はそこを重点的にマークするようになっているが、そのぶん他へのマークは薄い。

おまけに外敵からの侵入を警戒しているぶん、中からの脱走を防ぐというところまでは考えられていない。

源一郎様も邸内は新顔に巡回させて脱走を警戒しているが、外の警備は顔馴染みが多いようだった。


・・・・・・・・ということで、外の警備には最悪見つかっても口止めできる。


「ほっ!」


反動をつけながら、屋根から2階にある華穂様の部屋へ園芸倉庫から拝借したロープを使って降りていく。

燕尾服が黒くて助かった。

静かにバルコニーに降りて、しゃがんで小さく窓をノックする。



コンコンッ コンコンッ コンコンッ コンコンッ



時刻は丑三つ時。

もうお休みの華穂様にこの音は聞こえないかもしれない。

しかし大きな音が出せない以上、気づいてくださるまでひたすらノックするしかない。



コンコンッ コンコンッ コンコンッ コンコンッ



根気よくノックを続けていると、向こう側に人が近づいて来る気配を感じる。

ほんの少しだけカーテンが開かれ、何の音かと不安そうな華穂様の顔が覗く。


コンコンッ


再度ノックすると、華穂様がしゃがんでいる私に気づき大きく目を見開いたのがわかった。



「ど、どうしたの!?」



慌てて鍵を開けた華穂様に中に引き入れられる。



「どうやってバルコニーに・・・・。」


「屋根から降りて来ました。」



簡潔に答えて華穂様を見る。

あぁ・・・・、ますます窶れてしまわれた。

ふっくらしていた頬はこけ、目の下のクマはますます酷いことになっている。

・・・・・・・・早くこの事態を終わらせなければ。



「今日はお邸を離れる挨拶に参りました。」


「え・・・・??」



驚きのあまり呆然とした顔をしている華穂様の肩に手を置く。



「華穂様、私はこの状況を打開すべく外から動きます。

ですから、華穂様は中で出来ることをやってください。

必ず助けに来ます。

それまで元気でいてください。」


「外からってどうやって・・・・・・・・?」


「華穂様が高良田家に来てほぼ一年。

その間に親しくなられた方々は源一郎様には及ばないかもしれませんが、みなさま実力者揃いです。

きっと彼らの協力を仰げば何とかなります。

華穂様も裕一郎様も好かれていますから、みなさま進んで協力してくださるはずです。」



いつの間にか浮かんでいた涙を、華穂様がゴシゴシと袖で拭う。



「うん。

わたしも自分で出来ることを頑張る。

唯さんがいなくてもしっかりお嬢様やって、みんなを守るよ。」


「それでこそ私の自慢のお嬢様です。」



華穂様らしい満点の回答に最高の笑顔を返す。

華穂様も微笑み返し、ぎゅっと抱きしめてくれた。



「信じて待っていてください。

私も、そして裕一郎様も必ず帰ってきます。」


「うん、くれぐれも無茶はしないでね。

気をつけて。」



・・・・・・・・それは無理かな。

無茶はするので、『気をつけます』という意味で華穂様を抱きしめ返す。





こうして私は高良田邸から脱走した。

大変お待たせいたしました。

2週間ぶりくらいの本編です。

数日前に拍手お礼話も交換しておりますので、そちらと合わせてお楽しみください。

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