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その日から3日、特に進展はなかった。

華穂様は日中は邸でいつも通りのレッスンを受け、夜は仕事から帰ってきた空太と団欒のひと時を持つ。

心の中は違うのだろうが、取り乱すこともなく表面上は平静を保っていらっしゃる。


進一様は大した報告もないのに『ひとりだと不安でしょうから』と毎日やってきた。

仕事はどうしたと言いたいところだが、裕一郎様の件が今の進一様の仕事なのかもしれない。

客間に仕掛けた盗聴機からも、特に不審な会話は聞こえてこなかった。







「お疲れ様でした。」



レッスンが終わった華穂様にハーブティーを入れる。

もうすぐ進一様がくる時間なので、今は応接室で待機中だ。



「ありがとう。」


「おやすみなさらなくてもよろしいですか?」



表面上、いつもと変わりなく見える華穂様もメイクで誤魔化してはいるが日に日に目の下のクマが濃くなっていっている。

やはり眠れないのだろう。



「うん。・・・・・・・・何かやってる方が気がまぎれるんだ。

待ってるのって大変だね。」



苦笑しながら華穂様はお茶に口をつける。



コンコンッ



ノックの音に2人で扉を見る。

お手伝いさんが進一様を案内してきたのだろう。

扉を開けようと一歩踏み出すのと同時に、向こう側から扉が開いた。


現れた人物に息を呑む。



「こんにちは、華穂さん。」


「・・・・・・・・秀介さん?」



ゆったりと微笑む修介が中に入ってくる。



「あれ?今日って来る日じゃなかったですよね?」


「うん、今日は特別・・・・というか、今日から毎日会えるよ。 」


「???」


「華穂さんにね、会わせたい人がいるんだ。」



秀介が入ってきた扉を全開にして、その横に立つ。



「話が長いぞ。」



老人特有のしわがれた、けれどもはりのある声とともに車椅子に乗った人物が里美さんに介助されて入ってくる。



「あの・・・・??」



事態が飲み込めず困惑した華穂様の声に老人がふんっっと鼻を鳴らす。



「祖父の顔もわからんとはな。」



老人の言葉に華穂様が目を丸くする。



「おじい・・・・・・・・ちゃん?」


「おまけに言葉遣いもなっとらん。これだから育ちの悪い女の子供は・・・・。」



おー、さすが兄弟。

口の悪さは辰次郎さまそっくりだな。



高良田家前当主、高良田源一郎。

裕一郎様の父であり、華穂様の祖父である人物。

病になる前の写真と比べたら大分痩せているが、鋭い眼光はグループを支配していた頃の強さや威厳を感じさせる。


源一郎様の言葉に華穂様が傷ついた顔をする。



「・・・・申し訳ございません。お祖父様が、なぜこちらに?」


「なぜもなにもここはもともとわしの邸だ。

裕一郎がいない今、わしが出てくるのは当然だろう。」


「・・・・・・・・!!そうなの!!お父さんが行方不明でっ」


「言葉遣いに気をつけろ。」



祖父たる人物に勢い込んで父の現状を伝えようとする華穂様も、源一郎様の態度に口をつぐむ。



「あのような出来損ないの親不孝者などもういらん。

何度言おうとも後継を作らぬばかりか、わしを5年も閉じ込めおって・・・・。」



その言葉に華穂様が息を呑む音が聞こえる。




ガチャッ




緊迫した空気の中、開いた扉に視線が集まる。

注目を一身に集めた進一様は進一様で、中にいた人物に驚いたようだった。



「・・・・・・・・源一郎様?」


「・・・・・・・・お前は辰次郎の所の孫か。」


「はい、一臣の息子の進一です。

ご無沙汰いたしております。

なかなかお会いできずに心配しておりました。

お元気な姿が見られて嬉しく思います。」



さっと車椅子に近づいた進一様は跪いて源一郎様に視線を合わせる。



「お見舞いに行こうとしたこともあったのですが源一郎様に体調が優れないということで叶いませんでした。

これで祖父にもいい報告が出来ます。」


「ふんっ。あいつはわしにさっさと死んで欲しいと思っておるだろう。

邪魔な裕一郎もいなくなったことだしな。」


「そのようなことは決して。

祖父は兄としても一流の経営者としても源一郎様を尊敬しています。」


「口のまわり具合はあいつには似なかったようだな。

今日は何をしに来た。」


「裕一郎様が行方不昧になって心配している華穂様を慰めに来ました。」


「慰めに・・・・とはよく言ったものだ。

お前も知っているのだろう?」



源一郎様の言葉に進一様は無言で笑みを返す。



「帰れ。

こんな娘に時間を使うくらいなら仕事をしてグループと一族に貢献しろ。

不本意だがこの娘は高良田唯一の直系だ。

処遇はわしが決める。」


「・・・・・・・・はい。今日はこれで失礼します。

またお会いできるのを楽しみにしています。」



進一様は優雅に礼をすると帰って行った。

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