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応接室に入るとソファーに座った進一様は出されたお茶に手をつけず深刻な顔をしていた。



「華穂さんは一緒じゃないのか?」



華穂様が出てこなかったことが不満なのか、若干眉間にしわを寄せながらこちらが説明する前に進一様が口を開く。



「申し訳ございません。

華穂様は本日体調不良で休まれております。」


「高良田親族の連絡として直接華穂さんに伝えなければならないことがある。

華穂さんが来れないなら俺が華穂さんの部屋にいく。」


「・・・・かしこまりました。華穂様に伺ってまいります。」



随分強引だな。引く気はなさそうだ。

ならば要件を済ませてもらって早めにお引き取り願おう。

これ以上、華穂様に負担はかけられない。




華穂様に話すと華穂様が応接室に出向いてくださることになった。



「遅くなって申し訳ございません。進一様、ご無沙汰しております。」



華穂様が姿をあらわすと先ほどの雰囲気とは一変して進一様は柔らかい雰囲気になり、ドアのそばにいる華穂様を立って迎える。



「華穂さん、こちらこそお加減が優れないのに急な訪問をして申し訳ありません。

お辛いでしょうから、座ってゆっくり話しましょう。」



近寄ってきた進一様はエスコートするように華穂様の手を取りソファーに座らせる。

・・・・・・・・そしてなぜか自分もその隣に座った。



「あ、あの・・・・・・・・っ」



あまりに近い距離に華穂様が困惑しているが、それで遠慮するどころか更に進一様は華穂様の白い頬に手を伸ばした。



「あぁ、お正月にお会いした時よりやつれてしまわれてますね。顔色も悪い・・・・。

もしかして、華穂さんの方にも連絡が?」


「れ、連絡!?なんのことですか?・・・・というか、ちょっと・・・・。」




「お待たせいたしました。

華穂様、お茶を入れましたのでお飲みください。

進一様のお茶も新しく入れ直しましたので、よろしければ冷めないうちに。」



殊更目立つような大きな身振りでお茶をテーブルに置き注意を引く。

華穂様は明らかに安堵した顔をされ、進一様の手から逃れてお茶を手に取った。



「唯さん、ありがとう。

わたし冷え性なんで、顔色が悪いのはちょっと寒かっただけです。

紅茶を飲めばすぐに良くなります。」



華穂様は笑顔を浮かべながらさりげなく進一様から距離をとる。



「それで、連絡ってなんのことですか?」


「これは高良田家の重要な話なんです。

華穂さんとふたりで話したい。

席を外してくれないか。」



最後の一言は私に向けてだった。

・・・・・・・・さっきのアレを見せられてふたりっきりになんてさせたくない。

だが、ここではっきり拒否しようものならまた一悶着起きることは間違いない。



「かしこまりました。

廊下に控えております。

ドアは開けておきますので、要件がありましたらお声がけください。」



心細そうな華穂様の視線が突き刺さる。

ここで華穂様が一言『いて欲しい』と言ってくださればここに残れるが、“高良田家の重要な話”だと言われてそれを言い出すことはできないだろう。

私は断腸の思いで廊下に出た。








こんなことになるなら小型の盗聴器でも準備しておくべきだった。



そんな事を考えながら私は廊下に待機していた。

入り口にぴったり張り付くようにして控えているが、微かに話し声が聞こえて来るもののなんの話をしているかまではわからない。


なんとか聞こえないだろうかと耳を澄ましていたら、違う音が飛び込んできた。



ガシャバタドサッ

「華穂さん!!」



物の壊れる音と同時に聞こえた主人の名前に慌てて室内に入る。

そこには床に倒れ伏した華穂様の姿があった。



「華穂様!!」



慌てて駆け寄り状態を確認する。

意識がない。呼吸は安定している。見たところ外傷はなさそうだ。



「進一様、いったい何が!?」


「話している途中で急に気を失ってしまったんだ。

話の内容がショックだったんだと思う・・・・。」



気を失うほどショックな内容の話?



気になるが今は華穂様をこのままにしておけない。



「進一様、申し訳ございませんが本日はお引き取りください。」


「しかし・・・・」


「気を失うほどの衝撃を受けられたのでしたら、気がつかれて進一様の顔を見たらまた動揺されてしまうかもしれません。

落ち着いたらこちらから連絡いたします。

華穂様の服の下に怪我がないかどうかを確認しますので、ご退出を。」



“服を脱がせるから出て行け”



さすがにそこまで言われてここに居るとは言えないようで『目を覚ましたら必ず連絡を』と念押して進一様は出て行った。



華穂様の周りを確認する。



テーブルの上で割れたカップ。

幸い溢れた紅茶は華穂様と反対の方に流れており火傷の心配はなさそうだ。

上半身の服を脱がせてみる。

左の二の腕に赤く腫れている部分がある。

打撲の位置と態勢を確認して安堵する。

この角度なら頭を打ったということもなさそうだ。

本来ならば医者に見せるべきなのだろうが、正直今の状態で秀介は呼びたくない。

かといって別の医者を呼んで周りに不審を抱かせたくもない。



部屋に運ぶためにくったりと力の抜けた華穂様を抱き上げる。

不本意な形だがこれで休息は取れるだろう。

少しでも華穂様に穏やかな眠りが訪れることを祈った。

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