204
「あー、これどうしよう。」
元凶たる一弥を先に会場に戻らせて、鏡を前にため息をつく。
うなじにくっきりついたキスマーク。
このままでは会場に戻れない。
「邪魔するなって言ったばっかりなのに・・・・。」
赤くなっているそれにそっと触れる。
・・・・こんな、たった数日で消えてしまうものを残しても何の意味もないのに。
そこから手を離しまとめていた髪を解く。
うなじに絆創膏なんて意味深すぎるし、髪で隠すしかない。
・・・・・・・・いつもと髪型が違うだけで既に怪しすぎるが。
うなじが隠れる位置まで髪を垂らし、そこからゆるく一本の三つ編みにする。
・・・・・・・燕尾服に似合わなさすぎるが仕方ない。
早く会場に戻らなければ。
空太は上手くやっているだろうか?
料理長に空太を会場から出させる理由をもらっていこう。
私が戻った時には裕一郎様は離れていて、攻略対象者と華穂様で輪になって話していた。
雰囲気は先ほどと変わらない。特に問題はなかったようだ。
「あ、おかえり。」
私に気づいた華穂様がひらひらと手を振ってくださる。
「申し訳ありません。遅くなりました。」
「いいよー。ゆっくりしておいいでって言ってたしね。」
他の面々も次々に『おかえり』と言ってくれる。
「厨房の様子を確認してきたのですが、料理長が空太様に戻ってきてほしいと。」
「わかりました。戻ります。」
キリッと仕事の顔になった空太は軽く礼をすると、会場を出て行った。
そのことにホッと息をつく。
もう手遅れかもしれないが、これ以上の状況の悪化は防げるだろう。
「素敵な彼氏さんですね。」
!?!?!?
まさかの人物から決定的な言葉が飛び出してしまった。
隼人がキラキラした顔で笑っている。
純粋な笑顔が目に痛い。
「今日、桜井さんと会えてよかったです。
とっても幸せそうな華穂さん達を見て元気が出ました。」
「あ、ありがとう・・・・」
隼人のストレートな褒め言葉に華穂様は顔を真っ赤にしてモジモジしている。
あぁ、可愛い・・・・じゃなくてっ!!
「何だかとってもお互いわかりあってるみたいで・・・・俺もそんな相手が欲しいなって思いました。」
「そ、空太とはね、幼馴染なんだ。
もう10年ずっとそばにいて、楽しい時も辛い時もずっとそばにいてくれて・・・・、ずっとお兄ちゃんじゃないけど家族みたいに思ってた。
わたしが自分の気持ちに気づけたのは隼人くんが頑張ってたからだよ。
正確には隼人くんのお母さんが教えてくれた、昔の隼人くんの話からだけど。」
「え?」
「隼人くんのお家に行った日にね、お母さんが・・・・隼人くんのお父さんが亡くなった後のこと教えてくれたんだ。
その話を聞いて、わたしもお母さんが死んでから誰が支えてくれたのか気がついたの。
ずっとこの先も一緒に居たいってことも。」
「そうなんですね。
華穂さんが幸せになる手助けができたんならよかったです。
俺も、自分の幸せを探します。
華穂さんと桜井さんをお手本にしたいです!」
「おおおおぉぉお手本だなんてっ!
隼人くんもきっと隼人くんにぴったりな人が見つかるよ。
わたしにもできることがあったら言ってね。
手伝うから!」
「はい!ありがとうございます!!」
本当に隼人はいい子だ。
絶対に幸せになってほしい。
・・・・・・・・それよりも秀介に華穂様の恋人の存在がバレてしまったことへの対処が先だが。




