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ちょっとキリが悪いので短めです。
キッと仄暗い焔を揺らす一弥の瞳を睨む。
幸いこちらの険悪な雰囲気はまわりには気づかれていないようで、秀介と隼人の穏やかな話し声が聞こえてくる。
華穂様と空太を見る。
心配だが、ここで私が暴れるわけにも、一弥を暴走させるわけにもいかない。
「ちょっと出るよ。」
一弥にだけ聞こえるボリュームで囁いて、手の拘束を解く。
「華穂様、申し訳ございません。少し一弥と席を外します。」
「うん、いってらっしゃい。ゆっくりしてきいいよ。」
険悪な雰囲気に気づかない華穂様は周りの会話を邪魔しないように、小声でニコニコ手を振ってくださる。
・・・・・・・・ものすごぉく不本意だが、一弥との関係を勘違いさせたままの方が華穂様と空太に話題が飛びにくいだろう。
わざとアピールするように裕一郎様にお辞儀をしてから、一弥の手を取って会場の外に出た。
バァンッ
手近な部屋に一弥を放り入れて壁際に追い詰める。
「壁ドン?ちょっと古くない?」
こっちは怒っているのに嬉々とした表情にますますイライラが募る。
「壁じゃなくて顔面がいいならいつでもお応えするけど。」
「女の子に追い詰められてキスされるっていうシュチュエーションも萌えるよね。肉食女子っぽくて。」
・・・・本当に顔面に一発入れたい。
「一弥、あんたには本当に私が四六時中男に色目使ってる肉食女子に見えるわけ?」
「・・・・・・・・どうかな?」
人を食ったような顔で返される濁された答えに堪忍袋の尾がぷつりと切れた。
「あんたと一緒にしないで!!!
私は今華穂様のことで頭がいっぱいなの!!!
男なんて見てる暇ないし、愛だの恋だの結婚だの考えてる余裕ないの!!!!
邪魔しないで!!!!!」
屋敷中に響き渡るような大声だった。
ここ最近で溜まっていたモヤモヤが一気に爆発してしまった。
自分でもここまで大声で怒鳴り散らすほどのことを一弥にされたわけではないとわかっているのに止まらない。
「私の望みはたったひとつ。
華穂様が幸せでいてくださることだけなの!
私がもし男を見つめていたとしても、全部華穂様のため。
勝手に下衆な勘ぐりして余計な仕事増やしていい加減にしてよ!!!!私のことは放っておいて!!」
烈火のごとく怒っているのに、一弥は面白そうに口角を上げてこちらを見ている。
「唯ちゃんはほんとぉに華穂ちゃんでいっぱいなんだねぇ・・・・。」
「そうよ。
華穂様の執事になった時から私の中は華穂様のことだけ。
だから、誰であろうと華穂様の幸せを邪魔する相手は許さないし、華穂様に幸せになっていただく私の仕事の邪魔も許さない。」
気がついたのは初めて華穂様に会った時だったけれど、私が生まれたのはきっと華穂様と空太のためだから、この仕事は私の生きる意味。
何に代えても為さねばならないこと。
「華穂ちゃんで一杯の唯ちゃんの心に入る隙はないの?」
「ない。」
「隼人も御曹司も空太くんも三条先生も?」
「ない。」
御曹司はともかく、他は華穂様が好きなのだ。ありえない。
「じゃあさ、もし隼人が唯ちゃんのことが好きで一緒に海外に来てくれっていってもいかない?」
なんだそのありえない設定は。
「しつこい。私が華穂様を置いて海外になんて行くわけないでしょう。」
私の返答を聞くと、一弥は大きくため息をついたあとあろうことか笑い出した。
・・・・・・・・なんなんだいったい。付き合ってられない。
「じゃあ私戻るから。もう余計なことしないで。」
壁から手を離し踵を返す。
「うわっ」
一歩踏み出そうとしたところで、腕を取られそのまま後ろによろめく。
その力は強く、背中に当たった感触は硬い。
それがか一弥の意志の強さのようで、思わず体が強張った。
怒ってる唯は書きやすい・・・・・。
一弥じゃなくて私が怒ってる唯が好きなのかもしれない(==




