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するりと輪の中に入って来た裕一郎様はこちらを見て『相変わらず積極的だねぇ』とニヤリと笑う。


・・・・・・・・どこかに隠れたい。


と思うが、そんな場合ではないようだ。

なんでここに・・・・・・・・。



「華穂と唯くん以外は初めてだね。

彼は三条秀介くん。

彼は医者で、我が家の主治医として定期的にうちに来てくれているんだ。」



そう言って、裕一郎様は隣に立つ秀介のことを紹介した。



「初めまして、三条秀介です。

このようなおめでたい会に参加させていただきありがとうございます。

若宮選手のご活躍はテレビで拝見したり裕一郎さんから伺ってます。

ドイツでも頑張ってください。」



秀介の自己紹介に隼人と空太がそれぞれ自己紹介を返す。

そつなく挨拶をする3人をじっくり観察したかったが、正直私は私でそれどころではなかった。

・・・・さっきから一弥の拘束が強まっている。

なんなんだ一体。

次は一弥の番だと脇腹を肘で小突くと、ギュッと一度抱きしめた後一弥は離れた。



「皇一弥です。

うちの唯ちゃんがいつもお世話になってます。」



・・・・・・・・なにその自己紹介。

少し機嫌が悪い?


いつもと変わらない人好きするような笑顔だが、そこはかとなく漂う空気が不穏な気がする。


ただ、そう感じるのは私だけなのか秀介の方はいたって普通に返事を返している。



「こちらこそいつも平岡さんにはお世話になっています。

今度結婚なさるそうですね。おめでとうございます。」



はっ!?



「ありがとうございます。」



私が目を白黒させている間に一弥はにこやかな営業スマイルを展開している。

・・・・・・・・ただでさえ秀介が出て来てややこしくなってるのに、これ以上めんどくさくしないで・・・・。


今日一弥に初めて会った秀介は、報道での情報しか知らない。

だから、年末の歌番組での一弥の発言を鵜呑みにしているのだろう。



「一弥結婚スルノネ。オメデトウゴザイマス。オシアワセニ。」



棒読みで告げながらとりあえず離れてみる。



「うん。ふたりでしあわせになろーね。」



サッと距離を詰められて両手を握られる。

効果なかった・・・・。


私と一弥のやり取りを秀介は不思議そうに見ている。


もうスルーするしかない。



「裕一郎様、なぜこのタイミングで秀介様の紹介を?」


「おぉ、そうだそうだ。話が逸れてしまったね。

実は秀介くんの友人が日本人なんだがドイツで医師をしていてね。

もちろん隼人くんのチームにもチームドクターはいるんだろうが、やはり通訳を介してだと微妙なニュアンスがドクターに伝わらないこともあるだろう。

だからセカンドオピニオンとして紹介してもらってはと思ってね。

ちょうど秀介くんが来る日だったから、声をかけておいたんだよ。

そのドクターはスポーツ医学が専門でね。

ヨーロッパの日本人スポーツ選手からはかなり頼りにされている人なんだ。」



なるほど。

確かに裕一郎様のやりたいことはわかった。

隼人にとっても有意義なことだろう。


しかし、このタイミング・・・・。

偶然か、はたまたゲームの強制力が働いているのか。


秀介は華穂様と空太の関係に気づいただろうか。

こちらのことを故意に調べていない限り、知られてはいないはずだ。

高良田邸で華穂様と空太の交際は、公にされているわけではないが、なんとなく華穂さまに近いお手伝いさんや料理長などは『付き合っているんだろうな』と思っている状態だ。

できた使用人達は主人のプライベートを話のネタにしたりしない。

だから、週一訪ねてくる秀介であっても空太のことは知らないはず。

華穂様と空太やりとりで先ほどの隼人のように気づく可能性はあるが、今のところ秀介の前ではふたりで話していない。

ボロが出る前に空太を一度会場から出すべきか・・・・。


この後の対応を考えていると、急に手に圧力がかかった。

・・・・・・・・手、握られたままなの忘れてた。



「ねぇ・・・・、俺これでも我慢してるんだよ?

あんまり他の男に見惚れられると、いろいろ我慢できなくなるんだけど。」



一弥の目の中にゆらりと仄暗い焔が燃えている。

いつもはそれを見て固まってしまうのだが、なんだか今日は無性にそれにイライラする。


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