198
前半華穂視点。後半唯視点。
「空太・・・・あのね・・・・っ!」
苦しいくらい音を立てる心臓を抑えてなんとか言葉を出す。
私はいっつも空太にやってもらってばっかりだから、自分からはいけないけど少しでも返したい。
テーブルを挟んだ距離がもどかしい。
さっきのレストランみたいにもっと近く・・・わたしの温度が伝わるように。
思い切って空太の横に座りなおす。
わたしの行動に空太はびっくりしてるみたいだけど、何も言わずに言葉の続きを待ってくれる。
「えっと・・・・さっきのね・・・・・・その・・・・プロポーズなんだけど・・・・・・・・すっごくすっごく嬉しかった。
わたしも空太と一緒にあんなお店やりたい。
お嬢様の生活なんていらない。
そりゃあ唯さんもお手伝いさんも料理長もみんなみんな大好きだけど、わたしがここにいるのはお嬢様として暮らしたいからじゃないもん。
お父さんと・・・・ただ家族として暮らしたいだけ。
だから、空太が・・・・家族として、夫婦として一緒にいてくれるなら、どんな生活だっていい。
今の空太がそばにいてくれるだけで幸せだから。」
言葉だけじゃ足りないから、そっとその唇にくちづける。
わたしからの初めてのキス。
これは誓い。
ずっとずっとそばにいる。何があっても諦めない誓い。
「健やかなる時も病める時もわたしはずっとずっと空太のそばにいることを誓います。」
驚き、固まっていた空太の顔がくしゃりと歪む。
笑っているような泣いているようないっぱいいっぱいな顔。
「俺も健やかなる時も病める時も華穂を愛し、守ると誓います。」
お返しのキスが帰ってくるのを受け止める。
「んっ・・・・!?」
唇を割って入ってきたものに驚いて思わず身体が跳ねる。
抱きしめられて、なだめるように背中をさすられる。
甘くて深くて熱い。
「ふ・・・・んぁ・・・・」
自然と出てくる今まで聞いたこともない声に恥ずかしくなる。
・・・・・・・・でも、やめたくない。
フォンダンショコラ味の甘くて蕩けるようなキス。
・・・・なんだかわたしまで溶けちゃいそう。
くったりと力の抜け切った体を空太に預ける。
うまく思考がまとまらなくて、幸せな気分がふわふわしている。
そんなわたしの頭を嬉しそうに撫でる余裕の空太をちょっと恨めしく思いながら、その大きな胸に頬をすり寄せた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「では、昼間のことを聞こうか。」
裕一郎様は帰宅なされるとすぐに私に声をかけられた。
周りに聞かれたら困るので書斎にて報告をする。
「本日15時頃、進一様が事前連絡無しにお越しになられました。
華穂様にご用件があるということでしたがご不在でしたので私が代わりに対応いたしました。
進一様は源一郎様のお見舞いに来られたということでしたが、華穂様とご一緒にとお考えのようでした。
新年会の時も源一郎様のお話を華穂様にされていました。
理由はわかりませんが、華穂様と源一郎様を接触させようとなさっているようです。」
「・・・・・・・・新年会の件、報告がなかったようだが。」
「申し訳ございません。」
裕一郎様の鋭い視線に頭を下げる。
あの時、私は源一郎様について知らないことになっているので、私の口から源一郎様の名前が出るのはまずいかと思い報告しなかった。
思い返せば、あの時裕一郎様に話をしておけば何か対策を講じられたのかもしれない。
裕一郎様は片手で目を覆い、大きくため息をつく。
「・・・・すまない、八つ当たりだな。
こちらが何も話していないのに君に報告する義務はない。
・・・・・・・・君は私の父についてどの程度知っている?」
「会社経営者としての一面と、新年会の様子から裕一郎様と華穂様のお母様の結婚に反対なさっていたことくらいしか。」
高良田源一郎
巨大グループを牛耳る独裁タイプの経営者。
ワンマンでかなりの暴君だがその経営手腕は確かで、長く続くグループをさらに強大にした。
多くの人間には畏怖されていたがその手腕に心酔する者もいて、イメージとしては織田信長のような人物だ。
「5年前に病に倒れられて一線から引かれたと・・・・。」
「あぁ、その後のことだが・・・・」
裕一郎様が語られる、知っているけれど本当は知っていてはいけない事実に私は真剣に耳を傾けた。
これにてバレンタインはお終いです。
次回は拍手御礼話になります。
その前に、お正月のインタビューを小話にお引越しさせようと思います。




