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何度も何度も繰り返された言葉がカードにも記してある。
「流様は本当に私に笑っていて欲しいんですね。」
「あぁ、俺は嘘はつかない。
何度言ってもわからんようだから、カードにしておいた。
これでいつでも思い出せるだろう?」
もう一度カードに目を落とす。
このカードいっぱいに流の願いが込められている。
「・・・・私の幸せは華穂様が幸せになることです。」
「知っている。」
「今の私にとって華穂様以上に大切な方はいません。」
「わかっている。悔しいがな。
そういう一途で意志が強いところも気に入っている。」
流は柔らかく微笑みながらこちらを見ている。
穏やかな瞳は心から『今の私のままでいい』と思ってくれているのが伝わってくる。
「・・・・・私が笑顔でいるために、華穂様を守ってくださいますか?」
穏やかな瞳が意外なことを聞いたというふうに細められる。
「華穂は友人だ。
お前の願いがなくとも守ってやるのはやぶさかではない。
だが、それは俺ではなく桜井の役目だろう?」
「もちろん空太様は全力で華穂様を守るでしょう。
私も何に代えても華穂様を守っていく所存です。
・・・・・・・・ですが、どれだけ力を尽くしても空太様と私だけでは出来ないこともあるのです。」
今日の一件で自分の無力さを痛感した。
もともと流は助けてくれるだろうとは思っていたが、確かな言葉が欲しい。
「・・・・・・・・わかった。
お前がそう望むなら、約束しよう。
お前と桜井の力の及ばないところでは、俺が華穂を守ってやろう。
確かにお前達では入れないところもあるだろうからな。」
真剣な表情で頷いてくれたことにホッとする。
礼を言おうとして、次の瞬間息をのんだ。
・・・・・・・・切なく苦しそうな流の表情に。
「・・・・だから『何に代えても』などと言うな。
俺にとってお前の代わりになるようなものはない。
俺は約束を守る。
だからお前も約束を守って笑っていろ。」
「・・・・・・・・善処します。」
流が嘘をつかないなら私も嘘をつかない。
これからラストに向けて苦しくなっていく。
でも、流が約束を守ってくれるなら出来る限り笑っていよう。
「強情だな。」
「流様はこういう私を嫌いではないでしょう?」
先ほど言われた言葉をそのまま返すと、にやり笑いが返ってくる。
「そうだな。『何に代えても』その願いを叶えてやりたくなるくらいに好きだな。」
うぐぐ、やり返された。
私が華穂様を大切に思うのと同じくらい、私のことを想っていると示されて赤くなってしまう。
「そろそろ席に座らないとデザートが来ないな。」
その言葉にバッグの中のものを思い出す。
花束を渡し終えて席に戻ろうとする流を呼び止める。
「すみません、流様からいただいたものに比べればはるかにささやかで申し訳ないのですが、華穂様と私からの義理チョコです。」
バッグから出したお菓子を流に手渡すとなぜか驚いた顔をされる。
「・・・・貰っていいのか?」
「・・・・・・?えぇ、もちろん。」
義理だと言っているのになぜか嬉しそうに大切にお菓子を胸に抱く流。
・・・・・・・・義理だって伝わってるよね?
「またお前の菓子が食べれるのか。
今回も手作りなのだろう?」
「えぇ・・・・。」
「デザートはこれを食べよう。
俺の分はお前が食べればいい。」
えぇ!?持ち込みはマナー違反では・・・・・・・・。
焦る私の心情を気にすることなく、いそいそと席に戻った流は包みを慎重な手つきで開けていく。
「お前から菓子がもらえるとは思わなかった。
笑顔ももちろん嬉しいが、お前からの菓子もかなり嬉しいな。」
思わなかったって・・・・。
「私の方こそまさか今日、流様からプレゼントをいただくことになるなんて思ってもみませんでした。」
「なぜだ?
バレンタインとは意中の相手に愛を告げる日だろう?
俺の想いをお前に伝えるには最適だと思うが。」
『意中』『愛を告げる』という言葉に再び赤くなる。
「それは・・・・まあ・・・・そうなんですが・・・・。
日本では女性から男性へプレゼントするのが一般的ですから。」
「お前からこうしてプレゼントをもらえるのは確かに嬉しいが、それを待っていると思われるのは心外だな。
プレゼントというのは男が女にやるものだ。」
紳士というかなんというか、流らしい考え方だ。
流は義理ですらもらえるとは思っていなかったらしい。
ひとりでこっそり笑っていると、その間に包みを解いた流がブラウニーを口に入れていた。
「美味い。」
そこから始まる絶賛の嵐に全身むず痒いおもいをしながら、私はデザートを流の分までふたり分食べて帰途についた。
これにて唯のバレンタインは終わります。
残りは華穂ですが、その前に拍手御礼交換になります。
完了報告はいつものように活動報告で。




