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客間で裕一郎様と華穂お嬢様の話が終わったのは、私が挨拶をした2時間後だった。


華穂お嬢様の明日からの予定について話がなかなか合わなかったからだ。

お嬢様は現在、自分が育った養護施設で住み込みの職員として働いている。


レディになるためのレッスンに専念してもらうため、仕事をしばらく休んで欲しいという裕一郎様の言葉にお嬢様が難色を示されたのだ。


仕事を続けたいと裕一郎様を説得しようとするお嬢様の言葉の端々から、責任感が強いことが感じられる。


結局、すでに施設には裕一郎様が休みの許可をもらっているし、お嬢様が抜けた穴を埋める人材も手配済みということで、しぶしぶお嬢様が折れて明日からレッスンを始めることになった。



話疲れたお嬢様を、ご自分の部屋に案内し、紅茶を入れる。


紅茶が入るのを待つ間、お嬢様はそわそわと落ち着かな気にソファーに腰掛けている。


そんな様子にこっそり苦笑してしまう。


(まあ、仕方ないよね・・・・・)


お嬢様の部屋は広い。『お嬢様の部屋』と言っているが、ホテルのスイートルームのような作りでリビング、衣装部屋、寝室、バスルーム等いくつもの部屋が繋がっている。


今いるリビングだけでも広さが25畳ほどあり、庶民の感覚からいえばこんなに広い場所が自室だと言われても落ち着かない。施設で他の子達と同室で過ごして来たお嬢様は、余計にそう感じるだろう。


紅茶を飲み、ほっと一息ついたお嬢様に声をかける。


「落ち着かれましたか?」


「はい・・・。ほんのり甘くてちょっとホッとしました。」


「お疲れの時は甘いものがいいかと思い、少し蜂蜜を入れておきました。」


そう返事をした私に華穂お嬢様は遠慮がちに口を開く。


「あの・・・、平岡さんは執事さん・・・なんですよね?」


「唯とお呼びください。そうですね、私は華穂お嬢様の執事です。」


「あ、あのっ!!じゃあ私のことも華穂って呼んでください。そもそも私全然お嬢様って柄じゃないし!!」


ぶんぶん首と手を振って否定する姿が可愛らしい。

その姿にくすりと笑みが零れる。


「そのように否定なさらずとも、素敵な淑女になる素質をお持ちですよ。ただ、お嬢様という呼び方では落ち着かないようでしたら、華穂様とお呼びいたします。」


私の言葉に照れたのか、華穂様の頬はほんのり赤くなっている。


「私、執事さんって漫画とかドラマ以外で初めて見ました。本当にいるんですね。しかも女の人なんて・・・。」


「そうですね。私たちの仕事は前に出るような仕事ではありませんし、日本人には馴染みがないかもしれませんね。

ドラマの執事は見目の良い男性か白髪のご老人というパターンが多いですが、実際には女性もいます。

主人が女性の場合、同性の方が気安いというのもありますし。

私も華穂様と同性で年齢が近い方が、華穂様が快適に過ごせるだろうとのお父様のご配慮により、こちらでお世話になることになりました。」


「え?じゃあ、もともとこちらで働いていたわけじゃなかったんですか?」


「はい。こちらには3日ほど前に着きました。その前はハリウッド女優の方にお仕えしていました。」


「ハリウッド女優っ!?」


そこからプライバシーの侵害にならない範囲で話を広げていく。

撮影について行った先で見た美しい景色や、日本人が聞くとちょっとびっくりするようなハリウッドの常識、私の執事学校での出来事まで。

華穂様の緊張がすっかりほぐれた頃には、夕食の時間になっていた。



華穂様を食堂に案内する。

明治時代に建てられた高良田邸は、当時の上流階級に人気だった重厚な洋館である。

一部使いやすいよう改築はしているが、ベースである洋館の雰囲気は損なわれていない。

食堂も明治時代とほとんど変わらず、広い空間の中央に軽く20人は座れるであろうアンティークの長テーブルが鎮座している。

扉を開けた瞬間、ドラマでしか見たことのないような光景に固まってしまった華穂様に着席を促す。


華穂様が着席すると同時に料理が運ばれてくる。今日はフランス料理のフルコースのようだ。


「あの・・・・お父さんは?」


自室での朗らかな様子とは一転、雰囲気に飲まれて、また不安そうな様子を見せる華穂様に胸が痛むが、さらに残念な事実を伝える。


「お父様はまだ仕事が残っているそうで、会社に戻られました。帰りは遅くなるので華穂様は待たずに食事を済ませるよう言われております。」


「そう・・・ですか。」


静かな空間に華穂様の使うカトラリーの音が響く。

広いテーブルにポツンと座る姿が、まるで華穂さまの心の中を写しているようだった。

句読点の入れ方が難しい・・・

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