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「落ち込むなど時間の無駄でしかない。

もしそれで気が晴れるのならただの自己満足だ。」



さすが自信と実力の塊 流。

この男の辞書に落ち込むという言葉はないらしい。

容赦ない言葉が続く。



「反省するのはいいが、落ち込むだけなら何も得るものはない。

さっさと切り替えて次に取り組んだ方がいい。

そうして取り組んだ先で得たものが、先の問題や失敗を解決するのに役に立つこともある。

だからお前も忘れて食事を楽しめ。

もし忘れるのに酒が必要なら準備させる。

俺の家に泊まるのとセットでな。」



自分が言い出した話なのに、忘れろとは随分横暴だ。

流らしい物言いに笑ってしまう。



「それはやはり遠慮させていただきます。

流様、仰りたいことはよくわかりましたが、そのような直接的な物言いでは女性に嫌われてしまいますよ。」



少なくともバレンタインに落ち込んでいる女の子に『無駄だ』というような男はモテない。



「問題ない。

お前はこういう俺を嫌いではないだろう?」



ニヤリとした笑みを向けられて思わず顔が赤くなる。



「そ、それはまあ・・・・たしかに・・・・。」



流の率直な物言いは華穂様に向けられるとなんとなく腹がたつが、自分に向けられる分には飾らないところが心地いい。

というか、今更オブラートで包んだような物言いをされたら逆に気持ち悪い。



「俺はお前にさえ嫌われなければ、世の中の女になんと思われようが構わん。

むしろそれで近寄ってくる女が減るならありがたいくらいだ。」



あぁ、やっぱりおモテになるんですね。


ただでさえスペックのいい男だ。

今までもさぞやモテたことだろう。

それに、初めて会った時に比べて流は柔らかくなった。

口調は相変わらずだが、神々しいオーラはそのままに以前の威圧的な雰囲気ではなく、柔らかく声をかけやすい雰囲気になった。

ますます肉食女子が放っておかないだろう。


そんな人間がバレンタインという特別な日に自分の前にいる。

忙しいだろうに仕事を終わらせて、わざわざ時間を作ってくれている。


・・・・・・・・贅沢だな。分不相応に。

私はこの人にこれだけのことをさせる対価を渡せていない。



「また余計なことを考えているな。」


「・・・・わかりますか?」



本当に宗純並みのセンサーを備えているようだ。

それとも私がわかりやすくなっているのだろうか



「純粋に食事を楽しんでいる顔ではないからな。

どうせまた『自分にこんな所は相応しくない』とでも思っているのだろう。」



当たらずしも遠からず。



「先程も言ったがこの店のオーナーの希望は様々な人間に美味い料理を食べさせることだ。

そこにふさわしい相応しくないは存在しない。

俺はお前とここの料理を食べたいと思ったから連れてきた。

これは俺の望みだ。

お前が思い悩むようなことは何もない。

お前は俺に付き合わされていると思っていればいい。」



付き合わされてる・・・・か。

流にそんなことまで言わせるなんて・・・・自分の立ち位置を忘れそうだ。


流がフッと笑う。



「会うたびに言っている気がするな。

お前は笑っていろ。

お前が笑っているだけで俺は幸せになれる。

今日の食事も何もかもお前が笑っている顔を見たいからだ。

遠慮をするくらいなら笑っていろ。

お前も華穂には同じようにいてほしいだろう?」


「そうですね・・・・。」



華穂様の笑顔を思い浮かべる。

確かに給料という対価を裕一郎様からいただいてはいるが、それがなくても華穂様には笑っていてほしいと思う。

そのためならばどんな努力も厭わない。

流にとって私がそんな存在ならば、せめて笑っていよう。



「予定より少し早いが、これを渡しておこう。」



流がテーブルの下から取り出したものに目を見張る。

それは真紅の薔薇の花束だった。



「華穂の時は怒らせたからな。これくらいならいいだろう?」



100万本の薔薇イベントでの婉曲な怒りの御礼手紙の意味はちゃんと通じていたらしい。

花束を流から受け取る。

薔薇の甘い、それでもむせ返るほどではない香りに微笑む。

その花束の中から流は突然一厘抜き出した。

そのまま髪につけられる。



「!!!???」



なんだか頭につけられた感触が生花ではなく、何事かと怖々触っていると、笑われて取り外される。


流の手の中にあるのはバラのコサージュだった。

よく見ると花びらの縁はキラキラと輝き、中央には大粒のパールがついている。



「思った通りよく似合っていた。これならパーティでも普段でも使えるだろう。」



そう言いながら髪に付け直してくれる。



『こんな素晴らしい品を受け取ることはできません!』と反射的に言いそうになるのをぐっと堪える。

さっき決めたばかりだ。笑っていると。



「ありがとうございます。でも、どうしてこのようなプレゼントを・・・・?」


「バレンタインだからに決まっている。

花とカードは定番アイテムだろう。」



見ると、 確かに花束にはカードがついている。

折りたたまれたそれをそっとそれを開く。





『Happy Valentine’s Day.

俺がお前を笑顔にさせてやる。永遠に。』


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