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華穂視点
ペンギンの行進を見て、アシカとセイウチのショーを見て、色とりどりの熱帯魚達を満喫していたらあっという間に閉館時刻だった。
外に出たらもう真っ暗で、風が冷たい。
「ご飯、どこで食べよっか?」
ご飯を食べに行ってから家に戻ることは決めてたけど、どこで食べるかまでは決めてなかった。
この辺りで食べるなら魚が美味しそうだし、都心部で食べるならお肉やお鍋もいいかも。
「予約とってるとこあるから行くぞ。」
繋がれた手を引かれて歩く。
電車に乗ってついた先はスペイン料理店だった。
「わぁ。」
扉から入って思わず感嘆の声が出る。
外観も素敵だったけど、中もとっても素敵!!
カウンターの上の天井にはワイングラスがたくさんひっくり返して並べてあって、棚にはお酒や調味料・・・・なのかな?なんだかスペインっぽいものがたくさん並んでる。
黒板には今日のオススメとかいろんな料理の名前が書いてあってそこにつけられてるイラストがまた可愛い。
これがバルってお店なのかな?
お店の人に案内されて席につく。
そんなに広くない店内には私たちくらいの年齢のカップルから、子供連れの家族、お爺ちゃん同士のグループまでいろんな年齢層のお客さんがいて、みんな楽しそうに食事をしてる。
「いいお店だね。」
空太と一緒にいろんなお店回ってきたから、こういう賑やかでいろんな人がいるお店は味も期待できることを知ってる。
「ああ、前に先輩に連れてきてもらったんだ。」
メニューを見ながら空太にオススメを聞く。
やっぱり定番のパエリアとアヒージョは外せないよね。
あとは・・・・あ、パンにトマトと生ハム乗せたのも美味しそう。
ちょっとずつをたくさん頼めるのが飲茶みたいで楽しい。
食前酒にシードルを頼んで乾杯する。
「ふふ、なんだか懐かしいね。」
シードルを一口飲んで笑みを浮かべる。
「何が?」
「こうやって空太と外でご飯食べるの。」
一昨年はこうやって空太とご飯を食べに行くこともいつも・・・・とは言わないけど、たまにあることだったのに、付き合い始めてからはこれが初めて。
なんだか普通と逆でそれが面白い。
「最後に一緒にご飯食べに行ったの、まだ施設にいる時だったから一年ぶりくらいじゃないかな。」
「そうだなー。久々に誘おうかと思ったらお前施設にいねぇし。
あの時はマジ焦った。」
「ごめんってば!!」
確かに連絡しなかったのは悪かったと思うけど、何も今それを持ち出さなくても。
「・・・・・・・・まあでも、結果としては良かったかな。」
「うん?」
「あのままお前が施設にいたら、こうして食事に行くのも幼馴染としてだったろうし。」
すっと空太の手が伸びてきて顎に添えられる。
え、まさかこんなところでキス・・・・・・・・!?
ドキドキしてぎゅっと目を瞑ると、グイッと頬を摘まれた。
「なんて顔してんだよ。」
笑いながら離れていく手を恨めしげに見る。
・・・・・・・・ドキドキして損した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
だから外でそんな顔すんなって言ってんだろ・・・・。」
「そんな顔ってどんな顔・・・・・・・・。」
こっちは怒ってるのに、なんで逆に怒られないといけないの。
しかも恨みがましい視線は通じてないみたいだし。
ますます恨めしくなって睨み付けると、逆に空太の顔は赤くなっていく。
突然立ち上がった空太は私の隣に座る。
何事かと驚いて見ると頬に一瞬だけ暖かく柔らかい感触が触れる。
そのまま私の横に来た顔が小さな声で呟く。
「キスして欲しかったって顔。
俺も我慢してんだから、煽るような顔すんな。」
な、ななななっ!!
わたしが何も言えずに口をパクパクさせていると、空太は素知らぬ顔でシードルを飲み始めた。
さっき言われたことと隣の席という距離の近さにさらにドキドキする。
するなって空太がわたしをドキドキさせてるんじゃない!
料理を持ってきてくれたウェイターさんが微笑みながら空太のテーブルセッティングをわたしの隣にやり直してくれる。
こ、この位置は固定ってこと!?
空太が取り分けてくれる美味しそうな料理を見ながら、ドキドキしすぎて味がわかんないかもと心配になった。
今が今までで一番空太の人生で幸せな日なんだろうなぁと妄想してにやけてみる。
すみません、ちょっと体調を崩しております。
更新頻度が落ちそうです。




