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華穂視点。
キャーーーーーーー!!!
イルカの豪快な回転技に他の観客と一緒に歓声をあげる。
すごいすごいすごいすごい!!
あんなに大きな体が、わたしの何倍もある高さを華麗にジャンプしてる。
初めて見たけど、やっぱりテレビで見るのとは全然違う!
空太も楽しんでるかなと思って隣を見たら、こっち見て笑ってる空太と目があった。
その笑顔が優しくって、慌てて目をそらしたけどドキドキが鳴り止まない。
こんな感じで、わたしの水族館初体験は始まった。
「すごかったし可愛かったねー!」
「イルカもすごいけど、イルカにあれを教える飼育員もすごいよなぁ。」
「そうだね。お手本とかないのにどうやってるんだろ?」
イルカのショーを見終わって、今は館内のレストランで食事中。
窓際の席で前面ガラス張りのオーシャンビュー。
ナイフがサメ、スプーンがヒラメ、フォークがエビと小物が凝っててただでさえ楽しい気分をさらに盛り上げてくれる。
ハンバーグの上のチーズがイルカの形をしてるの見た時は、切るのためらっちゃった。
「水族館に来てよかった〜。」
「まだイルカしか見てねぇのに早すぎだろ。」
ちょうど水族館に着いた時にイルカのショー開始直前だったから、先にお昼にする予定をやめてショーに回ったんだよね。
だから、イルカ以外はこれから楽しむところ。
「イルカだけでも大満足!他を見たら大大大満足になる予定。」
「そーか。」
わたしの言葉に空太が笑ってくれる。
イルカのショーももちろん楽しかったけど、空太がこうして一緒に笑ってくれることが一番楽しい。
今日は最初から最後までずっとふたりとも笑顔でいられたらいいな。
食事を終えてレストランから出ると、当然のように手を繋がれる。
それがまた嬉しくってついにやけちゃう。
自然な仕草なのに隣から見る横顔はほんのり赤くて、照れてるのがわかる。
照明を絞ってある展示室では、水槽が青く光って幻想的な雰囲気を醸し出している。
イワシの群れが円筒の水槽の中をキラキラと輝きながらぐるぐる泳ぐ様子は、ミラーボールみたい。
隣の水槽では大きなクラゲがヒラヒラした・・・・足?ヒレかな??
リボンみたいな体の一部を優雅にたなびかせて徐々に色が変わっていくライトを浴びてその色を変えていく。
まるでクラゲ自身が発光してるみたい。
綺麗な生き物はもちろん、可愛い生き物も、ヘンテコな生き物も、こわ〜い顔の生き物も沢山いた。
チンアナゴがみんなでゆらゆら水流に揺れてる姿は、某アニメのキャラクターを思い出させる。
スベスベケブカガニってスベスベなのか毛深いのかよくわかんない変な名前。
見た目はスベスベで毛深くは見えないんだけど。
「お、でかいタラバだなー。やっぱ大味なのかな?」
「・・・・・・・・それ、やっぱり気になるの?」
水族館の魚を美味しいかどうかで見るのって、小学生くらいかと思ってたよ!!
「んー・・・・職業病じゃね?
どうしてもこうプリプリ太った魚を見ると、脂のってそうだなー・・・・とか。」
「じゃあ動物園に行けばよかったかなー。
あ、でも、牛も美味しそうに見えるのかな!?」
「いやいや、流石にそれはない。
別に俺が牛解体してるわけじゃねぇし。
水族館でも十分楽しいから気にすんな。
美味しそうに見える食べれる魚の種類なんてそんなに多くねぇし。」
そんなことを話しながら水族館を回っていく。
水族館には魚だけじゃなくてアシカやセイウチ、ペンギン変わったところでカワウソなんかもいた。
黒くてクリクリしたつぶらな瞳と水に濡れて滑らかに光る毛皮がすごく綺麗。
ついガラスに手を伸ばしてしまう。
「かわいー・・・・」
抱っこしたらふにゃふにゃなのかなー。
肩に乗せたり頬ずりしたりしたら気持ち良さそう・・・・・・・・。
「わっ!!」
カワウソに見とれてたら突然ぶすりと頬を突かれた。
「お前、見惚れすぎてアホヅラになってるぞ。」
「だ、誰がアホヅラっ!!」
「ほれ、しょーこ。」
目の前に出されたスマホの画面には、半口開けてうっとり笑っているわたしの横顔が写っていた。
う・・・・・・・・アホヅラ・・・・。
「・・・・・・・・気をつけます。」
「よろしい。」
偉そうに頷いてスマホをポケットに入れようとする空太を慌てて止める。
「その写真、ちゃんと消してね!」
「え?なんで??」
「なんでって・・・・、わたしのアホヅラなんて残しといても仕方ないでしょ!」
「いや、色々あるだろー。脅しの材料とか。」
「サイテー・・・・」
「冗談だよ。でも・・・・・・・・」
突然グイッと引っ張られて、顔が空太の肩に当たる。
そのまま覆いかぶさるように空太が顔を寄せてくる。
「俺以外にあんな顔見せんな。心配になんだろ。」
耳に直接吹き込まれた声に体が震える。
「か、カワウソだよ!?」
「カワウソでも。
どこで他の男が見てるかわかんねぇんだから。
お前のこの顔を見れんのは俺だけでいいんだよ。」
急に空太の体が離れてヒヤッとする。
「というわけで、これは貰っておく。」
わけのわからない理屈でスマホをポケットにしまった空太の顔は真っ赤で。
きっとわたしも空太に負けず劣らず真っ赤なんだろうと思った。




