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「唯ちゃん、どうかした?そんな寂しそうな顔して。華穂ちゃんの事が心配?」
一弥の言葉にハッと我にかえる。
顔に出ていたのか。油断しすぎだ。
「ううん、華穂様のことは心配してない。
空太様がいれば華穂様は大丈夫だから。
華穂様もイベントの女の子に負けず劣らずキラキラしていたでしょう?」
「そうだねぇ。
もともと華穂ちゃんは女の子らしい可愛い感じだったけど、今日は一段と可愛らしい顔してたねぇ。
あれは隼人が見たらショックだろうなぁ・・・・。」
「・・・・・・・・やっぱりそういうもの?」
隼人の予定が決まらないため、一弥にはまだ空太と隼人を会わせるのでそこに同席してほしいという話をしていなかった。
「人によるとは思うけど、俺だったら振られたとはいえ好きな女の子が俺の見た事ない顔で別の男に笑いかけてるのは見たくないねぇ。」
そうなのか。
「実は・・・・・・・・」
ここで私は隼人の希望で空太と会わせようとおもっている事。
そこに一弥も同席してほしいことを伝える。
それを聞くと、一弥は天を仰ぐようにソファーにもたれかかった。
「あいつはビビリのくせに妙なところだけ肝が座ってるんだよねぇ・・・・。
そういう潔さがあいつのいいところだけど。」
「そうねぇ。隼人様らしいといえばらしいね。
ところで、いつ隼人様がふられたって聞いたの?」
年末頃はまだ知られていなかったはずだ。
「2月の頭くらい?
『移籍する』って連絡が来たから『華穂ちゃんどーすんの?』って聞いたら『ふられました』ってあっさり。
声は明るかったけど、内心どーなんだかって思ってたら、そんなことになってたなんてねぇ・・・・・・・・。」
寂しそうに笑っていた隼人の顔を思い出す。
「・・・・きっと気持ちはまだ華穂様にあると思う。
けど、隼人様は自分の幸福よりも好きな相手の幸福を祝える人だから。
日本を立つ前にきっぱり心の整理をつけたいんじゃないかしら。」
「・・・・・・・・唯ちゃんは、相手の幸せな姿を見たら自分の恋を諦められる?」
どこか真剣味を帯びた声に、思わず一弥の顔を見る。
そこには心の奥底まで見透かそうとするような強い視線があった。
どくりと心臓が音を立てる。
その視線を受け止める事ができずに、私は一弥から目をそらした。
「・・・・・・・・どうかな。
そんなに人を好きになった事ないから。」
一度だけの恋は自分の都合で切り捨てた。
彼は幸せになっただろうか。
薄情な私は彼の幸せを願うどころか、思い出すことすらなかった。
もし仮にあのまま交際を続けて振られることになっても、理由も聞かずにあっさり了承の返事をするのかもしれない。
未練を残すような情熱はない。
ぼんやりとした思考のまま一弥の顔を見る。
何度断っても諦めないこの男の心の中はどうなっているのだろう。
振られても恋心を抱いたまま変わらず接する隼人も、10年間言えない一途な想いを抱え続けた空太も。
・・・・自分は薄っぺらい。
ゲームで心の中を覗いてはいても、きっとわかっているのは表面だけだ。
彼らの深く熱い想いを本当の意味で理解することはないのだろう。
それはすごく寂しいことに思える。
もし私に恋の熱というものがあれば、今のような中途半端な状態にはならなかったのだろうか。
“人を好きになるのって幸せ?”
華穂様に聞けは間違いなくはにかんだ顔で幸せだという答えが返ってくるだろう。
では、恋が実らなかった人にとってそれはなんだろうか。
目の前の男にそれを問うほど不躾ではない。
ただ、何を思って一弥がこうして私に会いに来てくれるのか、恋というものの本質を聞いてみたいと思った。
「・・・・・・・・ねぇ、その視線、俺はどう受け取ったらいいの?」
またしても一弥の声に我にかえる。
思考の海を漂っていて意識していなかった視線は一弥に固定されていた。
「心ここに在らずって感じだったけど、誰のこと考えてたの?」
考え事をする前よりなぜだか明らかに色気が増している一弥から再び視線を外す。
「誰というか・・・・みんなすごいなって思っただけ。」
「みんな?」
「隼人様や空太様が・・・・。」
一弥の名前はさすがに出せないが、簡単に消えることのない想いを持ち続けていられることは純粋にすごいことだと思った。




