181
「・・・・・・・・俺、本当に海外に行って大丈夫でしょうか?」
心なしか蒼い顔をした隼人が呟くように言った。
どうやら脅しすぎたらしい。
ブラジルで出会った拳銃強盗を肘鉄で目潰しして急所を膝蹴りで仕留めた話は少し刺激が強すぎただろうか。
「大丈夫ですよ。一緒に話した注意点さえ守っていればほとんど危ないことはありません。
海外で無事に暮らしている日本人も沢山いますから。」
テロや交通事故でもない限りは、注意していればほぼ大丈夫だ。
でなければ海外の日本人は全滅している。
そろそろ屋敷に戻らなければいけない時間だ。
話のキリもいいしこのあたりで解散しよう。
「隼人様、移籍のお話は隼人様から直接裕一郎様にされますか?」
「はい。」
「かしこまりました。正式に決まりましたら裕一郎様や華穂様、一弥も一緒に壮行会をしましょう。」
「ありがとうございます。」
そう言った後、隼人は何か続けて言いたそうな、けれどもそれを躊躇っているようなそんな仕草を見せた。
私は何も言わずに続きを待つ。
「あのっ・・・華穂さんの恋人ってどんな人ですか?」
隼人の言葉に私は軽く目を見開いた。
どうやらダメ元で投げていた釣り針に隼人は引っかかってくれていたらしい。
『よかった』としか言われなかったから失敗したと思っていたのだが。
「気になりますか?」
「気になるっていうか・・・・えっと、そのっ・・・・気になります・・・・・・・・。」
素直で良いことだ。
「個人情報になりますので私の口からは言えませんが・・・・。」
「あっ、そうですよね!!すいませんっ、つっこんだこときいちゃって!!忘れてください!!」
「お会いしてみませんか?」
「えっ?」
隼人の豆鉄砲を食らったような顔が可愛い。
「華穂様の恋人をご自分の目で確かめてみられませんか?」
「・・・・・・・・いいんですか?」
「もちろん華穂様と相手様の許可は必要ですが、嫌だとは仰らないと思います。
私見ですが、きっとおふたりは仲良くなれると思います。」
「・・・・・・・・。」
「無理にとは申しません。あくまで隼人様のご興味があれば・・・・という話です。」
「・・・・会わせてください。」
「かしこまりました。華穂様にお話ししておきます。
隼人様もしばらくお忙しいでしょうから、空いた日がわかりましたらご連絡ください。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
笑顔を浮かべて隼人と別れる。
これで攻略対象全員と繋ぎを作る場を整えられたことに心の中でこっそりガッツポーズをした。
「え?隼人くんと空太を?」
屋敷に帰って空太と隼人を会わせたいという話をすると華穂様は困惑顔になった。
「大丈夫かな・・・・。」
「隼人様空太様もお優しいので大丈夫かと。
隼人様もきっちり心の整理をされたいのでしょう。
クッション役として一弥にも声をかけようと思っておりますので、困った事態にはならないと思います。」
「・・・・・・・・でも、一弥と流が会った時は困ったことのなったよ?」
うぐっ
「・・・・・・・・大丈夫です。
一弥は当事者になると子供っぽいですが、第三者の調整役としては優秀ですから。」
「なんだかんだ言いながら、一弥のことも流のことも唯さんはよくわかってるよねー。」
うぐぐぐっ
今日の華穂様は妙に攻め込んでくる。
「・・・・なにか怒っていらっしゃいますか?」
「べつにー。唯さんは心の整理をいつつけるのかなーって。」
なんだかとっても手厳しい。
何も言えなくなってしまった私を見て、華穂様が困ったように笑う。
「10年間、これっぽっちも気づかなかったわたしが言えるセリフじゃないけど、宙ぶらりんは可哀想だよ。流や一弥はもちろん唯さんも。
別に責めたりされないけど、空太はわたしに言わない苦しいことがいっぱいあったんだと思う。
だから上手くいってもダメでも、隼人くんが心の整理をつけるみたいに早く切り替えないといけないと思うんだ。
わたしの10年は戻れないけど、唯さんは今真っ只中だからもどかしくって。
ちょっとイジワル言っちゃった。ごめんね?」
華穂様の言葉に黙って首を振る。
・・・・・・・・悪いのは私なのはわかっている。
はたから見たらそれがもどかしく、歯がゆいことも。
だからそれを聞くのは私の義務だ。
たとえその言葉を実行できなくとも。




