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展示も手伝ったし、昼間の受付も担当したので今回の展覧会の華を何度も見ている。
それでも暗闇の中LEDライトのシャープな光に照らされた華達は昼間とまったく違う印象を受けた。
「きれい・・・。」
華穂様がほぅっとため息をつく。
同じ気持ちだった。
昼間、明るく華やかな姿を誇っていた花々はライトの陰影により、妖しい美しさを醸し出している。
暗闇の中で輝くその姿は迫力もあり、思わずぞくりと震えが走る。
「すげぇ・・・・。」
空太も雰囲気にのまれているようで、呆然と華を見ていた。
それに対して宗純と流にとっては毎年の光景の為、普通に談笑(宗純は無表情だが)しながら観覧していた。
「何度見ても夜の華というのは格別だな。」
「そうですね。
活ける側としては昼と夜、両方の姿で自分のメッセージを表現しなければなりませんので、なかなか難しいのですがそれだけの価値はあると思います。」
そう言われれば、前回の展覧会より作品のクオリティ平均が上がっている気がする。
もしかしたら出展者の最低レベルが制限されているのかもしれない。
・・・・・・・・私も華穂様も、箸にも棒にもかからないレベルなので詳しい話は聞いていないが。
庭園の中に点在している先品を見ながら歩いていく。
冬の澄んだ空気が気持ちいい。
相変わらず歯に衣着せずバッサバッサと作品を批評していく流の声を聞きながら、華にじっくり向き合う行為は私を自然と厳粛な気持ちにさせた。
じっくり見ていたせいかあっという間に時間は過ぎて、最後の作品にたどり着いた時には到着から1時間が過ぎていた。
最後はもちろん宗純の作品だ。
苔むした大きな倒木の上にシダ植物であるウラジロが這うように活けられている。
ライトアップされた中央にはスミレに似た紫色の一輪の花が咲いている。
タイトルは『希望』。
解説がなくても一目見るだけで胸に残る作品だった。
「前回より大分良くなったな。それに作風が変わった。」
「ありがとうございます。」
「これはお前が言っていた女の影響か?」
流の爆弾発言に思わず耳が大きくなる。
女!?あの宗純に!!!???
いったいいつどこで!?
ぜんっぜん気がつかなかった・・・・・・・・。
自分が鈍いのはわかっていたが外から見るぶんには大丈夫だと思っていたのに。
やはり宗純の鉄面皮のせい・・・・?
「・・・・そうですね。半分は・・・・といったところでしょうか。」
「ますます興味が湧いたな。近いうちに会わせろ。」
「お断りします。」
宗純の即答に流が渋い顔になる。
「何故だ。」
「貴方に会わせる必要を感じません。」
「俺が必要だと言っている。」
流・・・・。
華穂様との初対面時の強引さを思い出して苦笑いしてしまう。
ふと見ると華穂様も同じように苦笑していた。
「流、無理言っちゃダメだよ。
それに『興味が湧いた』なんて言ったら、唯さんに誤解されちゃうよ?」
華穂様・・・わざわざ私の名前を出さないでください・・・・。
「なんだと?お前は俺の気持ちを疑うのか??」
いや、疑うっていうか、そもそも付き合ってないから疑う権利とかないし、そんなジト目で見られても・・・・。
「流様のお気持ちはともかく、宗純先生がお断りされているのに強要するのは良くないと思います。」
もし宗純の恋人?が繊細な方だった場合、流の口撃に耐えられないかもしれない。
美女を見慣れてる流だったらどんな人でも平然と『平凡な女だな。こんな奴のどこがいい?』とか言いそうだし。
会わなくて済むなら会わないに越したことはないだろう。
「・・・・・・・・お前がそう言うのならば仕方ない。今回はやめておいてやる。」
流に返事に宗純が微かに瞠目するのがわかった。
そのままフッと微笑む。
「本当に貴女には敵いませんね・・・・・・・・。」
私もなんでこんな事態になっているのかよくわからないんで突っ込まないでください。
かわりに宗純先生の恋人について探ったりしませんから。
「槙嶋様。」
「なんだ。」
「貴方が平岡さんの華を咲かせられた時に、彼女のことを紹介しましょう。」
・・・・・・・・助けたはずなのに恩を仇で返されているような・・・・。
「ふっ、やりがいが一つ増えたな。
唯、さっさと俺の元にこい。」
「・・・・・・・・遠慮させていただきます。」
「遠慮などいらん。お前が望むならすぐに式を挙げてもいいぞ。」
話が飛び過ぎてついていけない。
「少なくとも、私は華穂様が結婚なさるまで結婚する気はありません。」
「そうか。」
流の顔が華穂様と空太にいく。
華穂様、先ほど引っ張り込まれたお返しです。
引きつった笑いを浮かべる華穂様と空太を見ながらこっそり笑った。
とばっちりを受ける空太・・・




