17
社交的な華穂様は、今週に入って新しくついた教師の方々と一回目の授業で世間話ができるくらいには仲良くなったようだ。
・・・・・・・・・・・今日の教師はどうだろうか。
カッコーン
ししおどしの音が響く雄大な日本庭園を有する屋敷の廊下を、案内の人に連れられて華穂様とともに進む。
ここは花柳邸。今日は華道の授業だ。
案内された部屋で待っていると、屋敷の主がやってきた。パーティーの時ほどではないが、やはり冷気が漂っており、部屋の空気がピンと張り詰める。
「花柳宗純です。これからあなた方お二人の指導をさせていただきます。私のことは今後苗字ではなく名前で呼んでください。」
「「はい。」」
2人でしっかり返事をする。
まるで学生時代に戻ったような気分になる。
「平岡さん、あなたのことは高良田さんから聞いています。
執事ということですが、指導の間は主従関係を忘れ一生徒として指導を受けてください。」
「はい。かしこまりました。」
「それでは始めましょう。」
宗純がパンパンと手を叩くと、3人の女性がそれぞれ道具を抱えて部屋に入ってきた。
それを丁寧に各個人の前に並べてくれる。
「まずは道具の名前と手入れの仕方から・・・・」
宗純の指導には一切無駄がない。
ただ淡々と必要なことを述べ見本を見せる。
それがわかりにくいかといえばそうではなく、研ぎ澄まされた指導はシンプルでわかりやすい。
静謐な空間に流れるような所作の見目麗しい着物の男性。
まるで一枚の絵のようだ。
「平岡さん、何か気になることでも?」
鋭い視線が飛んできた。集中していないことに気づかれてしまったようだ。
「いえ、失礼致しました。」
雑念を払って指導に集中する。
一通り道具について学んだ後、いよいよ花に触れる段階になったのか、先ほどの女性たちが花を運んできた。
「生け方の指導に入る前にひとつ。
あなたはなぜ生け花を学ぶのですか?」
宗純の指導1回目で必ず起こるイベントだ。
ゲームでは主人公の回答が3択で示され、その答えによって好感度が上下する。
私が一緒にいても、問題なくイベントは発生するようでホッとする。
「平岡さんから答えてください。」
ホッとする間もなかった。
「・・・・・・・私は、常に主人の要望に応えられる執事でいたいと思っています。
華道を学ぶのは主人からもし生け花について求められることがあれば、それに応えたいからです。」
華道を極める方にとっては不純な動機だろうが、嘘をついても仕方ない。
・・・・・・それに嘘をついても見破られそうだ。
「・・・・・・わかりました。華穂さんは?」
「はっ、はい!えーっとっ・・・・・・」
現実なのでゲームとは違い選択肢はない。
華穂様はどんな答えをかえすのだろうか。
この質問では私たちの華道に対する姿勢が問われている。
遊び感覚なのか、真剣にやりたいのか。
自分から学ぼうと思ったのか、必用に迫られて仕方なくなのか。
一番最悪な答えは・・・・・
「お父さんに習うように言われたからです。」
ただでさえ鋭い宗純の目がさらに鋭く細められる。
部屋の温度が一気に下がった気がする。
「わたしは今、お父さんに言われていろんなことを勉強しています。
経営学やダンス、唯さんに教えてもらったウォーキングやマナー。
自分でやろうと思って始めたことじゃなかったけど、今はどれもとても面白いんです。
初めてのことでたくさん学ぶことがあるし、苦手なことが見つかったり、できないと思ってたことができるようになったり。
自分が成長してるんだなってわかります。
華道もきっとやってみたら楽しいんだろうと思って始めてみようと思いました。」
ふっ・・・・と、宗純の厳しい雰囲気が緩んだ。
華穂様の回答は宗純の合格点を貰えたようだ。
心の底からならともかく、その場限りの誤魔化しで『花が好きだから』や『令嬢の嗜みとしてなんとなく』というのは通用しない。
学ぶ側が真摯であれば、教える側にもそれが求められる。
その逆も然り。
「わかりました。おふたりともその気持ちを忘れないように。」
宗純の合格をもらった私たちは、彼の真摯な指導を受ける許可を得たようだ。
私もまた彼のその指導に報いることができるよう気を引き締めた。




