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「華穂様、今度の新春の華道展に空太様を招待しませんか?」



花柳流では新年・・・・といっても1月中旬から末にかけて将軍家所縁の庭園で毎年展覧会をおこなっている。

花柳流でも最大の催し物で、とても見応えがあるものらしい。



「え?でも、わたしも唯さんも出さないよね?」


「確かに私たちは出展しませんが、華を見て美的感覚を磨くことは空太様の料理のためになると思います。」



財力も権力も私が空太に協力してどうこうできるものではない。

武力に関しては協力できるだろうが、付け焼き刃の武力ほど危なっかしくて使えないものはない。

せいぜい体力をつけさせるくらいが妥当なところだ。


ということで考えた結果、コネクションを広げる手伝いをすることにした。

幸い流とはすでに知り合いだ。

流は空太を気に入っているし、強い味方になる。

出来れば秀介以外の攻略対象全員と華穂様の各界の権威である講師陣との繋がりをつくっておきたいところだが、それが難しくとも流と宗純だけは押さえておきたい。



「流様もいらっしゃるでしょうし、折角ですから観覧後に食事にでもいきましょう。」



そう提案すると華穂様は大きく目を見開いた。



「・・・・・・・・びっくりした。

まさか唯さんが『流とご飯に行く』なんて言うとは思わなかった。」



・・・・・・・・自分でもらしくないのはわかっています。

でも、私のことなんてどうでもいいんです。



「空太様も知り合いが多い方がリラックスできるでしょうし、流様は私たちより華についてお詳しいですから。」


「そうだね。

じゃあ、空太に聞いてみる!

いつがいいかな?」


「空太様の空いている日を教えていただければ、こちらで調整いたします。

流様には私から連絡いたします。」



こうして、空太強化計画が始まった。






空太がシフト制のため休みが合わず、展覧会は夜に見に行くことになった。

私も華穂様も受け付け当番の日ではなかったので、初詣の時のように流に迎えに来てもらう。



・・・・・・・・・エントランスにあらわれた流は上機嫌だった。



「流、ご機嫌だね。そんなに楽しみだったの?」



もこもこのラビットファーのついた白いコートを纏った華穂様が小首を傾げながら可愛らしく問いかける。



「あぁ、こいつから誘われたのは初めてだからな。

とても気分が良い。」



ざ、罪悪感・・・・・・・・。

相手の好意を知っていて利用するなんてまるで悪女だ。

そもそもつい先日、会わないようにしようと決めたばかりだったのに。

自分の都合で態度をあっさり翻す女なんて、私が流の友人ならば絶対に止めている。

・・・・・・・・流も一弥も本当に私のどこがいいのだろう。



「流様ほど芸術に詳しい方はいらっしゃいませんので。今日は是非、空太様にご説明をお願いします。」


「えぇ・・・・唯さん。折角喜んでるのにそれ言っちゃダメだよ・・・・。」



華穂様が残念な子を見るような目でこちらをみる。



「別に構わん。

それだけ俺が頼りになる男だということだ。」



そういうと思ってました。

きっと流は私が何を言ってもそうやって大きく受け止めてくれるのだろう。

だから私は油断してしまうのかもしれない。

自分勝手なもやもやとした思いを抱えたまま車に乗り込んだ。





「こんばんは、空太様。スーツ姿も素敵ですね。」



車を降りて空太を迎える。

スーツ姿の空太は初めてみる。

なかなか様になっていてかっこいい。

華穂様が車の中からほんのり頬を染めて空太を見ていた。

今日は夕食を食べにいく予定だが、店を決めていない。

ドレスコードのある店に入っても大丈夫なようにスーツを着てくるようにお願いしていた。



「ありがとうございます。

自分ではすっげー違和感あるんですけど、唯さんがそう言ってくれるとちょっとホッとします。」


「ご自分では見慣れないお姿ですからね。

華穂様も見惚れてしまうくらい素敵な男性ですよ。」



ちょっとからかうように言ってみると華穂様と空太、ふたりの顔が赤く染まる。

主人の恋が順調で執事は幸せです。

心の中でニヤニヤしていると不機嫌そうな声が後ろからかかる。



「挨拶はそれくらいでいいだろう。

早く乗れ。」



???


ついさっきまで上機嫌だったのに急にどうしたのだろうか。

言われて車に乗り込むと流の不機嫌のせいで空気がピリピリする。

妙な緊張感に包まれていると後ろで華穂様がくすりと笑った。


「流って心が広いのか狭いのかよくわかんないね。」


「・・・・・・・・どういうことですか?」


「華穂、余計なことは言うな。」



流から厳しい声が飛ぶが華穂様が堪えた様子はない。



「余計じゃないでしょ?

言わないと唯さんわかんないし。」



ん?それはこの不機嫌は私が原因ということだろうか?



「流は妬いてるんだよ。

唯さんが空太のこと褒めたから。」


「・・・・・・・・は?」



ポカンとした顔で流を見る。

流は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



「・・・・・お前が他の男を褒めるのは気分が悪い。」



え、えーっと・・・こ、これはどういう言葉を返せば・・・・・。



「自信過剰の俺様男の流でも、そういうこと言うんだねー。

意外な一面見ちゃった。」


「俺は唯さんが華穂並みに鈍いことに驚いた・・・・。」



新たな一面を見つけて盛り上がる後方と、なんとも言い難い空気が流れる前方。

微妙な空気のまま車は目的地へ向かっていった。

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