173
すみません。
172話の投稿でミスがありました。
11月28日に足りなかった分を追記しましたので途中までしかないものをお読みになられた方は1度172にお戻りください。
ビンゴが始まると呼ばれたので大広間に戻る。
大広間から離れたのは30分ほどだったが、会場内は離れる前よりずいぶん砕けた雰囲気になっていた。
へべれけになっている人も多い。
庭師のおじいさんなんて厨房の若いスタッフを捕まえて大号泣している。
泣き上戸か。
そんな賑わいの中ビンゴ大会は始まった。
『さーて、これより本日最後で最大のイベント、ビンゴ大会を始めたいと思います!』
司会者の声に会場中が盛り上がる。
ルールは普通のビンゴと同じ。
ビンゴができたら出来た順に景品の番号が書かれたくじを引くという形式になるらしい。
『景品については引いてからのお楽しみです!
一つだけ特賞がありますから、それだけ・・・・。
なんと、特賞は旅行券50万円分です!!』
旅行券かぁ。行く暇ないから当たっても使えないなぁ。
華穂様が当てたら空太と2人旅かな。
50万だったら国外・・・・。
まだ当たってもないのに心配になってきた。
そんな取らぬ狸の皮算用をしている間にビンゴが始まった。
『25番です!』
持っていたカードについていた25の数字に穴を開ける。
4つ目の数字でやっとカードに穴を開けることができた。
最初から穴がある中央ともう一つ空いた穴にちょっと嬉しい気分になる。
「おっ、やっと開いたねぇ。」
一弥が私のカードを見て笑う。
「本当にやっとね。」
一弥のカードにはすでに3つの穴が開いていた。
華穂様は・・・・。
「・・・・・・・・。」
綺麗に斜め一列に穴が開いていた。
まだ数字は4つ目。
最短最速ビンゴなのは間違いない。
「お、華穂ちゃん!おめでと〜!!」
ビンゴになったのに華穂様は死んだ魚のような目をしていた。
「・・・使用人の新年会なのにわたし空気読めてないよね・・・。」
・・・言いたいことはわかる。
が、ビンゴで空気を読むなんてさすがにできないと思う。
不可抗力である。
「こればっかりは運だからねぇ。
逆にビンゴを言い出さない方が、それがバレた時に気まずくなるんじゃない?」
『98番!』
華穂様の葛藤に気付くはずもなくビンゴは進んでいく。
「華穂ちゃんはさぁ、もし仮に自分が相手の立場だったらそういう気遣い欲しいと思う?
俺はやだなぁ。素直に喜んでる方が嬉しいよ。」
「そっか。そうだね!わたし、言ってくる!!」
華穂様は大きな声で『ビンゴ!』と宣言するとステージの方へ駆けていった。
その姿を嬉しく思う。
「一弥、ありがとう。」
きっと私が同じことを言っても気を使われていると感じて、華穂様は素直に受け取れなかっただろう。
使用人ではない第三者である一弥の言葉だから素直に受け取れた。
「・・・・いーえ、これだけでも今日来た甲斐あったな。」
「ん?」
甲斐??
「なんでもないよ。俺が唯ちゃんの掌の上で踊らされてるなーって話。」
「それ、十分なんでもあるんだけど。
掌の上で踊らせてるはそっちでしょう。
私が一弥のせいでどれだけドタバタしたか。」
一弥を踊らせたことなど一度もない。
いつも踊らされて突っぱねてと防戦一方だ。
「そりゃあ、俺はわざとそうしてるからねぇ。
唯ちゃんは計算なんてしなくても唯ちゃんでいるだけで俺を踊らせられる天才なんだよ。
俺を踊らせられるのも、俺が自分から喜んで踊るのも唯ちゃんだけ。」
一弥の視線が甘さを含む。
正直身に覚えが無さすぎて会話にはさっぱりついていけないが、それ以上つっこむと危険なことを肌で感じる。
甘い視線と緩やかに上がった口角が、今の一弥の気持ちを伝えていて返す言葉がなくなる。
『くじ引きBの中身は・・・・松坂牛1kgです!!』
ステージで華穂様が引いた景品が発表される。
強運ヒロインの華穂様は強運が今度は空気を読んだのか、はたまた運が切れたのか旅行券50万ではなかった。
それ以上何も言われないのをいいことに私はビンゴに集中することにした。
ビンゴ終了。
景品は参加者の半数がもらえる数準備されていた。
特賞の旅行券を当てたのはいつも華穂様を担当してくれる運転手。
一弥は10万円相当のボトルワインを、裕一郎様は高級お茶漬けセットを当てていた。
わたしは・・・・・・・・ビンゴ達成できなかった。
やっぱり持ってる人は違うんだなーという結果になった。
自由解散で使用人達が会場から帰っていく中、一弥を見送るために外に出た。
途中まで華穂様も一緒だったのだが、また不要な気遣いをされて一弥とふたりで外に出ることになった。
冬は陽が傾くのが早い。
外は薄紅色に染まっていた。
「おー、すごい夕陽だねぇ。ねぇ、唯ちゃん。帰る前に散歩に付き合ってよ。」
そう言って手を差し出す一弥に顔を顰める。
やっぱり何だか一弥らしくない。違和感がある。
「・・・・ねぇ、一弥。なにかあった?
なんだか今日おかしくない?」
「そぉ?いつも通りでしょう?」
夕陽の中で散歩っていつも通り?
そりゃぁ、好きな相手と歩くシュチュエーションとしてはありだとは思うが、じゃあそれを一弥がやりそうかと言われると・・・。
あぁ、でも夢の国ではドレス着せられたりとかもっとロマンチックなことを・・・・・・・・。
そこでふと私は違和感の正体に気がついた。
Wデート以来、初めてなのだ。
『女子が喜びそうなシュチュエーション』を準備されるのが。
Wデートで投げ飛ばした後から本性が出たのか、一弥は迫ってはくるが、こちらの都合など御構いなしで一方的だった。
だから私は強い態度でそれを突っぱねて来たのだ。
一弥にとってロマンチックな状況は玩具である『女を落とす手段』でしかない。
本性がバレている私にそれを使ってくるのは、心境の変化か、それとも一弥の中で私のランクが『玩具』に格下げされたのか。
・・・・・・・・でもあの瞳は、玩具にむける瞳じゃない。
だとしたらどうして・・・・。
「唯ちゃん、難しい顔してどうしたの?」
「・・・・・・・・どうかしたのは一弥でしょう?
どうして突然こんなことしようと思ったの?」
『こんなこと』の意味がわかったのか、一弥は苦しそうに笑った。
「困ったねぇ。唯ちゃんはなんでもお見通しで。」
「そりゃあ、これだけらしくないことされたらわかるし、気になる。」
「じゃあ理由まで自分で見抜いてよ。
俺が言っても信じないんだから。」
一弥の言葉が胸にぐさりと刺さった。
確かに私は踏み込ませないために、一弥の言葉をほぼ全否定してきた。
そのことに後悔はないけれど、苦しそうにそれを訴えられると刺さるものがある。
「なんか散歩って空気じゃなくなっちゃったねぇ。
もう帰ろうかな。
・・・・・・・・ねぇ、唯ちゃん。
これからもっと俺らしくないことするかもしれないけど見ててね。
見抜いてくれるの待ってるから。」
私は何も返すことができず、一弥が帰っていくのを黙って見送った。
苦しそうな笑顔は私の胸に刺さったままだった。
これにて一弥ミニライブ編は終わりです。
次回はいろいろあって放置になってた拍手お礼の続きを交換したいと思っています。
更新時は活動報告で報告します。




