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大歓声に包まれながら私は途方に暮れていた。
唇こそ離れたものの未だに左手は跪いた一弥の手の中。
こ、ここからどうすれば・・・・・・・・!!
ここ最近のいろいろでもう手を握られることには慣れた(というか諦めた)が、さすがに跪かれるというのはクルものがある。
手を引っ込めるのを窘めるような一弥からの視線にますます動悸がする。
ずいぶん長く感じた見つめ合いは、司会者の声によって終わりを告げた。
『皇一弥さん!すてきなステージありがとうございました〜!』
それに合わせて一弥が立ち上がる。
・・・・・・・・左手は絡められたまま。
そのまま存在をアピールするように絡められたままの腕が天に向かって掲げられる。
・・・・なんかボクシングのレフェリーと勝者みたいだな。
脳は現実逃避を始めている。
『ありがとうございました。
みんなノリいいから、俺も楽しかったです。
高良田社長、ぜひ来年も呼んでくださいね!
今回、協力してくれた平岡さんにもう一度拍手を!!』
もう一度大きな拍手が起きる。
・・・・拍手はいいから解放して欲しい。
それが本音だが、拍手をする人々の満足そうな顔を見るとこういうのも悪くない気がしてくる。
これが一弥の見てる世界。
・・・・やっぱりすごい。
本人がどんなに闇を抱えていても、多くの人間が惹かれる。
一弥にはそれだけの魅力や資質がある。
「いやー、二人ともとても良かったよ。」
いつの間にか裕一郎様が近くに来ていた。
「ありがとうございます。
俺も唯ちゃんやお客さんのおかげで気持ちいいステージでした。」
「私は立っていただけですから何も。
こんなに注目を浴びるならもう少し相手役っぽい格好をしてくればよかったですね。」
(なんで事前にこうなるって教えて下さらなかったんですか。裕一郎様!)
私の心の叫びはわかっているだろうに、にこやかに返される。
「いやいや、唯くんはそのままでも十分お姫様のようだよ。
なぁ、皇くん?」
「えぇ、俺にとって唯一のお姫様ですから。」
一弥は繋いでいた手を離してさも当然といった風に私の腰に腕をまわす。・・・・おい。
ミニライブが終わっても有名人。
一弥に見惚れていた人々からどよめきが起きる。
「それに、唯くんもサプライズは好きだろう?」
・・・・・・・・裕一郎様、ウィンクはとても魅力的なのですが、そんなもので私の機嫌は治りませんよ。
私は仕掛ける側が好きなのであって、仕掛けられる側じゃありません!
しかも仕掛けられた相手が喜ばないサプライズはサプライズとは言いません!!
「いつも仕掛ける方なので、仕掛けられるなんて思ってもみませんでした。」
「とても驚いてくれたんで高良田社長の誘いに乗った甲斐がありました。
年末は忙しくて全然会えてませんでしたし。」
にこにこしている一弥が憎らしい。
きっと実情を知らない周りには私たちはとても仲のいいカップルに見えているだろう。
あー、今日はケータリングスタッフなんかの外部の人間もいるのに・・・・。
何が悲しくて外にまで誤解を広げなければならないんだ!!
「すみません、裕一郎様。
たくさんの方に注目されてちょっと緊張してしまいましたので、少し退室させていただいてもよろしいでしょうか?」
とにかくこの場は逃げよう。
一弥と裕一郎様にタッグでこられたら絶対勝てない。
「あぁ、そうだね。
ビンゴになったら人をやるからゆっくり休んでおいで。
華穂、皇くんも疲れているだろうからゲストルームに案内してあげなさい。」
「う、うん、わかった。」
・・・・2人でいなくなったらますます誤解を招くことに・・・・!!
裕一郎様、絶対わざとですね!?
言ったことは取り消せない。
華穂様先頭に、私は一弥に腰を抱かれたまま大広間を後にした。




