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思わぬ大物ゲストに会場中が盛り上がる。
・・・・・・・・私と華穂様を除いて。
一曲目は盛り上げるべくアップテンポな曲で、ステージ上の一弥もあのライブの時のようにノリノリだ。
歌いながら手を叩き観客たちに手拍子をねだる。
あっという間にそれは広がり、宴の主役の私たち使用人どころか、仕事中のはずのケータリングスタッフにまで楽しげに手を叩いている。
完全に一弥のホームだ。
私と華穂様は明らかに取り残されている。
「まさか一弥が来るなんて!これも唯ちゃんのおかげかしらねぇ。」
お手伝いさんは上機嫌にうふふと笑っている。
特に何も訂正していないので仕方ないのだが、あの騒動以降、高良田家使用人は私と一弥は付き合っていると思っているようだった。
騒動の最中の私の憔悴っぷりから誰もその話題を私にふることもなく、私からわざわざ『付き合っていません』と宣言するのも微妙でそのままにしていたら、一弥の会見をそのまま鵜呑みにされてしまった。
まあ、彼女のいうこともおそらく間違ってはいないのだろうが。
なんの理由もなく一弥がいくらCM親会社トップの家とはいえ、こんな規模の新年会に出て来るはずがない。
十中八九、私に用があるのだろう。
残り一、二の可能性は裕一郎様くらいだ。
さて、どうするか。
本音を言っていいならば今すぐここから逃走したい。
が、歌いながら時々飛んで来る視線はとても逃してくれそうではない。
無視して逃げたら後がさらに怖いことになりそうだ。
「どうするの?」
華穂様がツンツンと私の袖を引っ張りながら小声で聞いて来る。
「どうしようもないんじゃないですか。」
もう投げやりだ。
主犯が裕一郎様である以上なるようにしかならない。
このミニライブが終わるまでこの状態から事態が動くことはないはず。
逃げられないなら気を揉むだけ無駄だ。
さすがにこの状況を楽しめるほど図太くはないが、楽しんでいる人々を邪魔するほど無粋ではない。
「ライブが終われば裕一郎様から一弥から声がかかるでしょうから、それまでは大人しくしています。
華穂様も裕一郎様のせっかくのお心遣いですから、楽しまれてください。」
にっこりと笑いながら答えると、華穂様は微妙な表情で一弥へ視線を戻した。
3曲歌ったところで一弥が口を開いた。
『こんにちは。皇一弥です。
今日は高良田社長に招待してもらっての飛び入り参加です!
なんかこの後、超豪華商品のビンゴがあるって聞いたんで楽しみにしてきました。
ビンゴ大会の前座、頑張ります!』
一弥の言葉にクスクスと笑いが起きる。
ここで一弥は司会者に促されて衣装チェンジに入った。
一弥が下がるとみんな一気に話し出す。
「すごいわぁ、生一弥!!
しかもあの衣装この間テレビで来てたやつじゃない?」
「そうそう、バックでギター弾いて時の奴よね!!
かっこいー!!」
みんなワイワイガヤガヤ話しながら何故か私の方に集まってくる。
「やっぱ本物はオーラが違うねぇ。
あんなにすごいのと付き合っていけるなんて、さすが平岡ちゃんだ!」
「本当に、もしわたしが若くても近づくのさえ恐れ多いわ。」
「いえ、付き合ってるわけでは・・・・」
チャンスとばかりに主張してみるが、みんな興奮していて聞いてくれない。
結局、否定できないまま一弥の再登場でおしゃべりは一気に鎮まった。
今度も年末に着ていた衣装ででてきた。
歌い始めた一弥を見て『あっ・・』と何かに気がついたように華穂様が小さく声を上げる。
「どうかなさいましたか?」
華穂様は上目遣いで何度かこちらをチラチラと見た後、首を振った。
・・・・可愛い。
「ううん・・・ちょっと・・・・。」
思ったことを教えてくれる気は無いらしい。
ただ小さく『頑張ってね。』と呟いた。
・・・・・・・・なんだろう。なんだか嫌な予感しかしない。
ただでさえどうにもできない状況なのに、まだ何かあるのか。
戦々恐々としてステージを見る。
すると歌い終えた一弥がステージ上で早着替えをした。
人々から歓声が上がる。白一弥だ。
歌うのはもちろんフェリシテのCM曲。
高良田家で歌うには一番ふさわしい曲だろう。
甘く切ない歌声にうっとりとした空気が漂う。
・・・・・・・・生で一弥の歌を聴くのはライブ以来だ。
同じ曲を聴くと、より一弥の変化を・・・成長を感じる。
別に前の歌が薄っぺらかったとは思わない。
それでも以前とは全然違う。
それだけ圧倒的だ。
その変化の大きさが一弥の中での自分の大きさを感じさせて苦しい。
一弥と目線が交わる。
その瞳はライブの時よりもさらに切なく熱い炎を宿していた。
すみません、なんかまたバタバタしております。
ちょっと休みがちになりそうです。




