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流視点。

ニコニコ笑っている唯を前に動けない。


また今日の服装が悪い。

こいつは俺がクリスマスに贈った服を着てきていた。

白いファーのかざりのついたグレーのタイトワンピース。

柔らかくフィットする生地が体のラインを艶めかしく魅せている。



不意に唯が立ち上がった。



「流、きょうはありがとう。

あんまり長居してもいけないから、かえります。」



ぺこりと頭を下げた後、蕩けたような顔で微笑む。



「ま、待て。もう少しここにいろ!!」



バカなことを言うな。

そんな状態で帰せるわけないだろう!



「えー、でも、時間たつとわたしすっごくよわいからワインまわっちゃう・・・・・・。」



もう手遅れだ。十分まわっている。



「それに流、すぐにどきどきさせるから、いつもよりまわるのはやいとおもうんだぁ。」



・・・・・・・・“どきどきさせる”という言葉に自然と頬が緩む。

今までのアプローチで帰ってきた反応は悪くないとは思っていたが、こうやって言葉にされると嬉しいものだ。



「だからやっぱり帰ります。」



・・・・・喜んでいる場合ではなかったな。

俺はこいつの肩を軽く押さえて座らせた。

両肩を押さえたまま、諭すように言い聞かせる。



「いいか。よく聞け。

お前はもうすでに酔っている。

そんな状態を主人の前に晒すのはお前とて不本意だろう。

酔いが醒めるまで大人しくしていろ。」



主人第一のこいつのことだ。

こう言えば大人しく従うだろうと思ったのだが、帰ってきた答えは予想外だった。



「きょうはホテルにかえるからだいじょうぶ。」


「は?」



ホテル・・・だと!?

こいつは高良田邸に住み込みだったはずだ。

それがホテル!?

・・・・・・・・・・・ホテルを使う理由など一つしか思い浮かばない。



「・・・・・・・・誰とだ。」



詰問するような言葉が勝手に出て来る。

他の男がこいつに寄ってくるのは仕方ない。

それを気にしないとも言った。

だが、こいつからも男の方にいくのは話が別だ。

・・・ましてやホテルなど見過ごすわけにはいかない。


肩を抑えていた手に力が入る。



「誰がホテルで待っている?」


「誰?」



意味がわからないのかとぼけているのか。

首をかしげる姿にギリギリと胸が軋む。


そんな無防備な姿のまま、他の男のところへ行くというのか!?

俺の気持ちを知っておきながら・・・・・。


心の中で悪魔が囁く。



『どうせ自分のものにならないのなら我慢しなくていいだろう?

このまま他に男に渡すくらいなら・・・・・・・』



ふわっと頬に何かが触れ、我にかえった。



「だいじょうぶ?」



唯の手が俺の頬に触れている。

柔らかく感じたのはワンピースの袖口ついているファーが触れた感触だった。



「くるしそう。どうしたの?」



心配そうにこちらを見つめる瞳にドロドロとしたものは解けていった。

強く掴んでいた手の力を抜き、そのままそっと抱きしめる。



「苦しいな。

苦しいからそばにいてくれるか?」



そう問えば、抱きしめられたことで空いた手が背中を優しく撫でてくれる。



「病院いく?」


「・・・・・・いや、こうしてさすってくれていれば大丈夫だ。」



先ほどまで荒れていた気持ちが嘘のように凪いで、満ち足りた気持ちになっていく。

・・・・・たとえそれが“心配”であったとしても、今、この瞬間はこいつの気持ちは俺に向いている。

そうだ。今はそれで十分だ。


しばらくそうしていると、背中をゆっくりさすっていた手が止まった。

腕の中が少しだけ先ほどより重くなる。

少し身体を放してみると安心しきった寝顔がそこにはあった。


幸せなため息が溢れる。

信頼されていると喜ぶべきか、もっともっと男として意識してほしいと望むべきか。



「俺といるとドキドキするんじゃなかったのか?」



もちろん返事はなく穏やかな寝顔を浮かべたままだ。



「そういう顔をされるといじめてやりたくなるな。」



柔らかな身体を抱き上げ、寝室に向かう。

こいつの相手が誰だかは知らんが、今この瞬間ときは俺のものだ。

目が覚めた時、隣に俺がいたらどんな反応をするだろうか。

それを想像してほくそ笑む。


ベッドに横たえると寒いのかこちらにすり寄ってこようとする。

そのことに喜びを感じながら、その身体を抱き締めゆっくりと目を閉じた。
















あ、あれ?

最近、流ばっかり美味しい思いしてるのでお預け食らわせていじめてやろうと思ったのに、なんだか幸せな感じに・・・・・。

ナゼダ。

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