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ワインをちびりちびりと味わうように口にしながら本題に入る。
「電話でも簡単にお話ししたのですが、一流経営者としての流様に自らの結婚をかけてまで高良田グループとの提携、もしくはその先の合併を望むほど高良田グループのどこに惹かれたのか、あとは流様から見る高良田グループの問題点についてお伺いしたいのです。」
まさか単刀直入に『高良田親族内にいろいろな確執があるようなので、知っていたら教えてください』なんてことは言えない。
主家のプライバシーをバラすなんて執事にあるまじきことだし、流がもしこのことを知らなかった場合にはビジネス面で裕一郎様が不利な立場になる可能性もある。
・・・・まあ、流がそんな卑怯な手を使うとは思わないが。
「ふむ。
まず誤解のないように言っておくが、俺にとって結婚とは1つのビジネスの手段に過ぎなかった。
“結婚をかけて”というほど重いものではなかった。」
「わかっています。
流様の結婚に必要なのは強力なコネと家柄であり、奥様個人に求める物はないということは。
ですが、たとえビジネスのカードとしても結婚というのは1度しか切れない重要なカードです。
それを高良田グループに使おうと思ったのはなぜですか?」
そういうと流はつまらなそうに嘆息した。
「お前のいう“1度しか切れない重要なカード”を、ビジネスの相手でもなんでもないお前に使っていることに気づいて欲しいのだがな。」
墓穴掘った・・・・・・・。
「お前に会うまで“結婚”とはただのビジネスの手段に過ぎなかったが、お前と結婚すると決めてからは今まで全てをかけてきたビジネスに使うのすら惜しくなる重要なものになるのだから不思議だな。」
流し目で微笑まれてワインで赤くなっていた頬がますます赤くなる。
うぅ、早く本題に戻さなければ。
あまりドキドキさせられると時間がなくなる。
「流様の結婚観が変わったことはわかりました。
それで、高良田グループについてですが・・・・・」
明らかに話題を逸らした(本題に戻しただけだが)私に、流は若干ムッとした顔をするも何も言わずに話してくれた。
「高良田グループの経営状況については使える家のことだ。お前も把握しているだろう。
経営者ならば誰でも喉から手が出るほど欲しい巨大優良企業だ。」
「はい。」
IR情報など紙面でわかる情報は全て把握している。
聞きたいのは紙には書かれないことだ。
「企業経営は良好。
あとは経営者が高良田社長だということも重要だった。」
「裕一郎様・・・・ですか?」
「あぁ、あの人は凄い。」
流からでた他人を褒める言葉に目から鱗が落ちそうになった。
唯我独尊だった流が『裕一郎様が凄い』から、高良田グループと提携したかった・・・・・と?
「俺は生まれた時から経営者になることが決まっていて帝王教育も受けていた。
最初から道を決められた俺に初めて出来た尊敬する人間が高良田社長だった。」
さっきから目から鱗がボロボロ落ちている私を気にかけることなく、流はどんどんしゃべていく。
「歴史こそ遥かに違うが、槙嶋と高良田グループは似たような構造だ。
親族経営でいくつもの子会社を持つ多角経営をしている。
そういう会社はしがらみが多い。」
「しがらみ・・・・・」
「やれ親族の誰それが結婚するから重要なポストにつけろだの、こいうは気に入らないから別の子会社に出向させろだの。
“親族”というだけでなんでも通ると思っている輩が多すぎる。
あとは取引先も『代々贔屓にしてもらって』などと抜かして、企業努力をしない会社が多い。」
あー、まあよくある話である。
どんなに創業者が立派な人間であったとしても、その子孫たちが優秀とは限らない。
時が経つにつれ会社の体質が変容し、取引先との癒着が始まることも珍しくない。
「高良田グループは5年前、高良田社長がトップに立ってから凄い勢いで改革を進めている。
表向きは『代替わりに伴い新しい風を入れる』ということだったが、追い出されたのはきな臭い話のある人物や取引先ばかりだった。
その改革を推し進めたことも凄いが、高良田社長は不正の証拠を一切外部に漏らさなかった。
社内の不正を暴くには細心の注意がいる。
ただ暴いただけでは企業イメージに傷が付く。
業界人の間での噂のレベルなら問題はないが、マスコミに嗅ぎつけられ一般消費者に知られたら一貫の終わりだ。
外にも内にも悟られずに証拠を集め、相手に反撃も許さず秘密裏にことを収める。
なかなか出来る事ではない。
高良田社長はそれを鮮やかにやってのけ、空いたポストには親族以外の実力者を据えるなど一気にグループの清浄化をはかっている。」
なるほど。
辰次郎様の言っていた“余計なこと”はこのことか。
裕一郎様の改革により粛清された親族が新年会に来なくなって、参加人数が半分になった・・・・と。
私は 流からでてくる裕一郎様への褒め言葉に気分を良くしながら、ワインをこくりと飲んだ。




