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華穂視点。
お父さんと夕食の約束をして空太と部屋に戻ってきた。
晩御飯は空太が作ってくれるみたい。
材料も全部唯さんが準備してたみたいで、ただただ脱帽してしまう。
「突然あんなこと言い出すからびっくりしちゃった。」
ソファーにふたりで並んで座る。
「マスオさんか婿養子か?」
「いや、それも驚いたけど、そうじゃなくてその・・・・・・・」
自分の口から言うのは恥ずかしい。
「け、結婚を前提って・・・・・」
「あぁ、そんなことか。」
そんなこと!?
空太にとって結婚ってそんなこと扱いなの!?
「そんなことじゃないよ!!聞いてないからびっくりしたよ!!
そ、そもそも付き合ってまだ2週なのに・・・・・。」
まさかこのためにスーツ着てきてたなんて思ってもみなかった。
「別に今すぐ結婚するっていってるわけじゃねーんだからいいだろ。
あくまで結婚を前提にした交際なんだから。」
「で、でも!わたしなんにも聞いてなかったし!!」
そもそもお父さんの許可を取る前にわたしにけっ結婚したい思ってることを、つっ伝えるのが先だと・・・あ〜ダメ!考えただけで恥ずかしくなってきた!!
オーバーヒートしかけた頭は、空太の次の一言で一気にクールダウンした。
「は?告白した時に言っただろ。」
「へ?」
告白した時・・・・・・・?
心当たりのないわたしの様子にだんだん空太がふくれっ面になってくる。
「お前・・・・・・まさか人の一世一代の告白を忘れたなんてことは・・・・・」
「わ、忘れてない!忘れてないよもちろん!!」
10年の衝撃はなかなか忘れられないと思う、うん。
忘れてはないんだけど・・・・・やっぱり心当たりがない。
思い出せない様子の私に空太はひとつ『はぁ』っとため息をついて、頭をくしゃりと撫でた。
「言っただろ。『本当の家族になりたい』って。
精神的にもだけど、法的にも家族になりたいんだよ。
誰からも認められる幸せな家族に。」
「空太・・・・・」
施設の子の多くは普通の子よりずっと家族への憧れが強い。
だから、空太もそうなのかもしれない。
「華穂。
親父さんから許可ももらったし、俺が一人前の料理人になったら俺と結婚してほしい。
絶対、何があっても諦めねぇって誓う。
だから俺とずっと一緒にいてくれ。」
頭を撫でていた手はおろされて、わたしの両手を包み込むように握られる。
「わたしも、何があっても諦めないよ。
だからわたしと家族になってください。」
お父さんとお母さんみたいに大変なことがいっぱい起こるかもしれない。
でも、わたしは空太を信じてるし、味方もたくさんいる。
だから絶対に諦めない。
空太の顔がゆっくりと近づいてくる。
わたしはそれを受け止めるために、そっと目を閉じた。
幸せな触れ合いの後、空太の胸にもたれ掛かったまま気になったことを問いかける。
「ねぇ、空太。
もしも会えるとしたら空太は実のお父さんとお母さんに会いたい?」
「は?突然どうした?」
空太は捨て子だった。
生後数日で病院前に捨てられていたのを発見されて保護されたから、両親については誰も知らない。
そのことをあっけらかんと話すけど、両親に会いたいと思ったり、逆に捨てたことを恨んでたりはしないのかな。
「・・・・・・さっきのお父さんの話に出てきたお祖父ちゃんね、まだ生きてるんだって。
一昨日の集まりの時に親戚の人が言ってた。
その時にね、なんとなくお父さんたちのこと反対してたみたいなことは聞いたんだけど、お祖父ちゃんに会いたいのか会いたくないのか、会ったとしてもどんな顔したらいいのかよくわかんなくて・・・・。
お父さんからは今日まで一度もお祖父ちゃんの話をしたことがなかったから、余計に・・・・・。」
空太は腰に回していた腕を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺は、自分の両親についてはなんとも思ってない。
もともと居ないもんだと思ってるし、捨てられたことも殺されなかっただけマシだと思ってる。
だから会ったとしても特に関わることもないだろうな。
血は繋がってるけど赤の他人だ。
俺の父親は山中先生で、母親は先生みんなで十分だ。
そもそも会ってもお互いわかんないと思うしな。
だから、お前も会うかどうかわかんない人間のことで悩むな。
今日の親父さんの話を聞く限り、お前と会わせたいと思ってるとも思えねぇし。」
「そう・・・だね。」
そうだ。
お祖父ちゃんは血が繋がってるかもしれないけど“家族”じゃない。
わたしと空太は血は繋がってないけど“家族”だし、そのうち“本当の家族”になる。
“家族”って関係は作り上げていくものなんだ。
だからお祖父ちゃんと家族のなるかどうかは会った時に決めればいい。
今はお父さんと空太がいるだけで十分。
そう思いながら、空太の胸に顔を埋めた。
晩御飯は鍋だった。
しかも食べるのはお父さんの部屋に置いてあるおこたに入りながら。
・・・・・・昨日はお父さんの部屋におこたなんてなかったはずなんだけど??
昨日までソファーとローテーブルがあった場所に、正方形の4人座ればいっぱいいっぱいになりそうな大きさのこたつが置いてある。
部屋とミスマッチすぎてちょっと笑える。
「これも全部唯くんが手配していってくれたんだよ。
華穂は華やかなパーティーよりも、こういうお正月の方が好きだろうからと。」
もう何から何まで今日は一日、唯さんに感謝しっぱなし。
小さなおこたは3人で入ると足がぶつかってしまって、それがまた相手を近くに感じられて心地いい。
あったかいおこたの中であったかい鍋をくっつきながら和気あいあいと食べる。
暖かくて優しいわたしの理想の“家族”がここにはあった。
これにてお正月華穂verは終わりです。
休暇中の唯verを書くか、話を先に進めるかは悩み中。
明日は所用のため、更新ありません。




