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華穂視点。
「あ、あの!!」
空太が少し大きめの声を出したのは食事も終わって、食後のお茶を飲みながらまったりした時間を楽しんでる時だった。
何かな?っとわたしもお父さんも注目する。
「今日は高良田さんにお願いがあって新年早々こちらにお邪魔しました。」
お願いってなんだろう?
「・・・・・・・・何かな?」
お父さんはちょっと黙った後、ゆったり笑いながら口を開いた。
・・・・・なんか笑ってるんだけど迫力があるのは気のせいかな。
空太がごくりと唾を飲み込むのが見える。
「お嬢さんと結婚を前提に交際させてください!」
なっ!!!!!?????
突然のことに一瞬で頭が真っ白になった。
わたしは固まり、お父さんは沈黙し、空太は判決を待つ罪人のように意を決した表情でお父さんの言葉を待っている。
けけけけけ結婚って!!!
そりゃあいつかは、その・・・空太と・・・って思ってるけど、ま、まだ付き合い始めて半月も経ってないのにそんなに突然・・・・。
頭が動き出すとそんなことを考えちゃってだんだん顔が赤くなってくる。
「ダメだ。」
お父さんの一言でわたしの頭はまた凍りついたように固まった。
だめ・・・・?
空太も微動だにしない。
「・・・・・・・・といったら、君は諦めるのかい?」
お父さんが射るような視線で空太を見つめる。
・・・・・いつも優しいお父さんが、今は怖い。
「絶対に諦めません。
お許しがいただけるまで、何度だって頼みに来ます。
華穂さんとの結婚するために足りないものがあるなら、必ず直します。」
空太もお父さんと同じくらい強く、お父さんを見つめ返す。
空太の言葉に心臓がバクバクするし、お父さんの返事が気になるしでさっきからわたしは緊張しっぱなしだ。
どのくらいたったのかなんてわからないけど、すごく長く感じる。
「そこまで言うならいいだろう。」
一気に嬉しさでいっぱいになりそうな心は、お父さんの続きでまた固まった。
「ただし、条件がある。」
じょ、条件??
「・・・・・・どんな条件であろうと、必ずクリアしてみせます。」
空太の言葉にお父さんが表情を緩めた。
「これは華穂。お前にも課される条件だ。」
「わたしにも・・・・・・?」
「そうだ。
わたしが君たちふたりに求めるのは『絶対に諦めないこと』だ。
少し、昔話をしよう。」
そこからお父さんはお母さんと別れることになった理由を話してくれた。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに反対されたこと。
どんなに説得しようとしてもダメで、ふたりで駆け落ちの計画を立てたこと。
その途中でお腹の中のわたしと一緒にお母さん1人でいなくなってしまったこと。
お母さんからの別れの手紙には『私は真っ直ぐに目標に向かって努力をしている貴方を好きになりました。それを私のために捨てて欲しくはありません。貴方に期待している人もいます。貴方は貴方のいるべき場所で頑張ってください』と書いてあったということ。
「私も夏美もね、諦めてしまったんだ。
夏美は私と一緒にいる未来を。
私は親を説得することを。
諦めてしまったから、一緒にいることができなかった。
本当はどんなに反対されても説得を続けるべきだったんだ。
そうすれば私は自分の目指した場所にいるまま、愛する女性と最愛の娘と一緒にいることができたのかもしれない。
華穂、お前は望んでいないだろうが高良田財閥のひとり娘であることは変えようがない。
祖父のように家のため、会社の利益のため、空太くんとの結婚を反対する者は多くいるだろう。
でも、どんなに反対されても、何があっても諦めないでほしい。
中には唯くんと皇くんの時のように空太くんが嫌がらせのようなことをされるかもしれない。
その時は周りの迷惑がかかるからと黙って諦めずに、私や唯くんに相談しなさい。
施設の山中先生も相談に乗ってくれるだろう。
君たち以外にも君たちの幸せを願っている人間は多いんだから。」
「はい。」
お父さんの話と空太のハッキリとした力強い返事に胸がジーンと熱くなる。
「華穂、お前とお母さんを幸せにできなくてすまなかった。
お前は幸せになりなさい。」
席から立ち上がって、わたしに頭を下げるお父さんの姿に涙が溢れてくる。
「・・・わたしは幸せだよっ。
お母さんも幸せだって、お父さんのことが大好きだっていつもいってた。
そりゃあ一緒にいられた方がもっと幸せだったかもしれないけど、でも、そしたら空太には会えなかったから、きっとこれはこれでいいんだよ。
今度はお父さんをわたしが幸せにしてあげる。
お母さんの分まで側にいるから。だから謝らなくていいからね。」
思わずそのままお父さんに抱きついた。
お父さんはそのまま頭を撫でてくれる。
「ははは。
なんだか私と結婚してくれるみたいになってしまったな。
空太くんが見てるけどいいのかい?」
「いいの!空太も大好きだけど、お父さんも大好きだもん!ね、空太?」
お父さんに抱きついたまま空太を見る。
空太は優しい顔で頷いてくれた。
「そこまでいってくれると嫁に出すのが惜しくなってくるな。」
「俺、マスオさんでも婿養子でも大丈夫ですから。」
空太の言葉に3人で笑いあった。
それがまた嬉しくて幸せで涙が溢れてくるのをお父さんの胸に顔を埋めて隠した。




