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裕一郎様が次に向かったのは先代のお姉様であるツタ子伯母様の所だった。

ツタ子様は嫁がれたということで後ろの方の席だったが、とても上品で慎ましやかなお綺麗な方で華穂様にも笑顔で話しかけてくださっていた。

同じ兄弟とは思えない。


ツタ子様への挨拶を終えると行くべきところは無くなったのか、今度はお客様の方から裕一郎様に近づいてこられた。

それを確認しながら妙なことに気づく。


距離感だ。


本家と近しい分家ほどよそよそしく、逆に遠い親族の方が裕一郎様に対して親しげで話ながら笑顔がこぼれている。

近い分家の人間は一臣さんと同じように固く、しかも若干裕一郎様を怖れているような雰囲気が伝わってくる。

遠い分家ほど本家に対して怯えがあるというのはよくある話なのだが、その逆というのは理由がよくわからない。



「裕一郎様、あけましておめでとうございます。」



裕一郎様と華穂様を囲む輪の中から、ひとり進み出てきたのは私と同じ歳くらいの背の高い男性だった。

甘く優しげな顔立ちで栗色の柔らかく癖のある髪が動きに合わせて揺れている。

一臣様の長男の進一様だ。

若者なので立食組で辰次郎様のテーブルにはいなかった。



「先ほどは祖父が失礼なことを言っていたみたいですみません。」


「あけましておめでとう。

先日どのことなら気にしていないよ。

当主への助言も叔父さんの大事な役目だからね。」



進一様の態度は一臣様とは正反対ににこやかで柔らかだ。



「裕一郎様の広い御心に感謝します。

先ほどは祖父ばかりが喋っていてきちんとご挨拶できなかったので、華穂様にご挨拶をさせていただいても?」


「あぁ、進一くんは華穂に合うのは初めてだったね。」


「はい。」


「華穂、私は別の方と話してくるから、進一くんとの話が終わってから来なさい。」


「うん、わかった。」


「ありがとうございます。裕一郎様。

少しの間、華穂様をお借りします。」



裕一郎様は少し離れたところで別の方と話し始めた。

それを見てから進一様が口を開く。



「初めまして、華穂様。

先ほどは祖父が大変失礼しました。

辰次郎の孫の進一です。歳も近いんで、仲良くしてください。」



にこっと人好きのする笑顔を浮かべて手を差し出す進一様に、華穂様もそれを軽く握る。



「こちらこそよろしくお願いします。

わたしのほうが年下ですし、様なんていらないです。」


「ではお言葉に甘えて。

華穂さんはお父様に似て優しいんですね。

お祖父様に似なくて良かった。」



クスクスと笑う進一様に華穂様がキョトンとした顔をする。



「お祖父様・・・・・ですか?」


「えぇ、源一郎様は辰次郎お祖父様とそっくりで厳しいお顔ですから。

似ていたら今の華穂さんのような優しそうな美人にはならなかったはずです。

源一郎様はお元気ですか?」


「えぇっと・・・わたし、お祖父様にはお会いしたことがなくて・・・・・。」



困惑したように裕一郎様に華穂様が視線を送るが、もちろん裕一郎様はお話中でその様子に気づかない。

これ以上の会話はまずい。



「お話中、申し訳ございません。

華穂様に宗純先生からお電話が入っております。

お急ぎとのことですが・・・・・。」


「あ、わかりました。

すみません、失礼してもよろしいでしょうか?」


「えぇ、かまいません。

宗純先生というのは、もしかして華道の第一人者である花柳宗純先生ですか?

そんな方から電話がかかってくるなんてすごいですね。」


「宗純先生にご指導していただいてるので。

それでは申し訳ございませんが、失礼します。」



ぺこりと頭を下げる華穂様を足早にそこから連れ出す。


大広間から少し離れた廊下で、私は華穂様に頭を下げた。



「申し訳ございません。華穂様に対して嘘をつきました。

お電話などかかってきておりません。」


「えっ!?」



驚いた声が聞こえてくるが、頭を下げた状態なのでその表情を見ることはできない。

少しすると小さなため息が聞こえてきた。



「頭を上げて。

ごめんね。わたしがうまく答えられなかったから助けてくれたんだよね。

ありがとう。」


「いえ、割り込むような不躾な形になってしまい申し訳ございません。」



ゆっくり頭をあげると何かを躊躇うような戸惑った表情の華穂様がいた。



「・・・・・・・・・・唯さんはお祖父様について、何か知ってる?」



私は気持ちが顔に出ないように平常心を心がけ、口を開いた。

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