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「ようこそお越しくださいました。

開始までは控え室でおくつろぎください。」



辰次郎様ご一家をご案内した後から続々とお客様がやってくる。

私はピストン輸送のようにエントランスと応接室や控え室を往復してお客様をご案内している。


いくら広い高良田邸とはいえ80人がくつろげるような広いスペースは宴会会場である大広間しかない。

そのためお客様は応接室をはじめ、複数の部屋に分かれてお待ちいただいている。

各部屋に配置している給仕への連絡や調整、裕一郎様へお客様到着の連絡など、まさに目の回る忙しさだ。

去年はこれを裕一郎様お一人でお客様の相手をしながらこなしていたというのだから驚きである。

やはり上に立つ人間というのは視野が広く人を誘導するのが上手い。



「裕一郎様、綾子様がいらっしゃいました。

これでお客様は皆様お揃いです。」


「わかった。では10分後に始めよう。

それまでに最終チェックを。」



私に指示をしてから裕一郎様が立ち上がる。



「皆様、どうやら全員到着したようです。

今から10分後に始めようと思います。

私は一度席を外しますが、時間になりましたら係が案内します。

それまでもうしばらくご歓談ください。」



控え室の外に出る裕一郎様の後について出る。



「綾子様は第三控え室にご案内しました。」


「わかった。華穂は?」


「華穂様も第三控え室にいらっしゃいます。

それでは私はチェックと連絡に入ります。」


「あぁ、頼んだよ。

第三控え室の案内は私がするから、その人員はそちらに回そう。」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします。」



各部屋に誘導時刻を告げてから、厨房にも連絡。

大広間の隣の準備室で酒の準備を始めてもらう。

全ての確認を終え、大広間の扉前に待機するとすぐにお客様方がいらっしゃった。


今日の新年会は半立食パーティー形式だ。

移動しやすいようにテーブルとテーブルの間を空け、ご高齢のお客様のために椅子付きのテーブルが家格に合わせて設置されている。

最前列のテーブルにはもちろん辰次郎様が案内される。


露骨だなぁと思う。


先輩の使用人に聞くとこれでも裕一郎様が当主になってから大分改善された方らしい。

以前は全員席に着く形式で、上座に本家に近い血筋の者。下座にいくほど遠い分家で、本家のものは一切テーブルから動かず、分家の者がテーブルを回って挨拶に来るという形式だったらしい。

裕一郎様が立食パーティー形式を提案されたが、ご高齢のお客様のためのテーブルは必要で、色々な反対がありテーブルに関しては家格順が残ってしまったらしい。

反対意見の筆頭はおそらく辰次郎様だろう。



裕一郎様が挨拶をして全員で乾杯をする。

そこからはみんな自由行動だ。

料理を取りに行くお客様もいれば、目当ての相手に声をかけに行くお客様もいる。


裕一郎様と華穂様は辰次郎様のテーブルに挨拶に行くようだ。

私はそれとなく周囲に目を配りながら、話が聞こえる位置に陣取った。



「叔父さん、今年のお酒はいかがですか?」


「・・・・・・・満雪酒造の『寿ことほぎ』か。

悪くない。」


「今年もバレてしまいましたか。

相変わらずお詳しい。来年はもっと無名で美味しいお酒を探さないといけませんね。」



辰次郎様は大の日本酒好きだ。

フェリシテの重役を勤めていた時も日本全国酒造と提携し日本酒のラインナップを揃え、日本酒ブームを巻き起こした立役者だ。



「酒のことで私に勝とうなど100年早い。

それにお前が探すべきなのは酒じゃなく嫁だろう。」


「叔父さん、毎年言っていますが、私は結婚する気はありません。」


「では後継はどうする。

まさかここまで続いてきた家を絶やす気か?」


「会社は一臣さんに引き継いでも構いません。

家は華穂がいますから、血筋は絶えませんよ。」


「しかし女ではないか。

婿養子でも取るのか?」



聞こえて来る会話にため息をつきたくなる。

よくもまあ本人を前にここまで言えるものだ。

しかも毎年のことらしいので呆れてしまう。



「そもそもお前には本家の当主としての自覚が足りん。

お前が余計なことをやらかすから、見てみろ。

この5年で新年会の人数が半分になったわ。」



余計なこと??



「叔父さん、それは新年会の席でするような話ではありません。」


「何を言うか。

これこそ一族全員で話合わねばならんことではないか。

本家当主というのは一族の先頭に立ち繁栄に導くという大事な役目が」


「父さん!」



怒涛の勢いで喋る辰次郎様を止めたのは息子の一臣様だった。



「本家の御当主に失礼です。裕一郎様、申し訳ございません。」



深々と謝罪をする一臣様に違和感を覚える。

一臣様は裕一郎様にとって従兄弟。

その上、高良田グループの副社長であり、裕一郎様にとっては近しいはずの人間だ。

それなのにこの距離感はなんだろう。



「いや、気にしないでくれ。一臣さん。

叔父さんが一族のことを考えてくださっているのはよくわかっているから。

叔父さん、私たちは他の方々へ挨拶をしてきます。

お酒は他にも準備してありますから、どうぞお楽しみください。」



ぺこりと頭を下げて辰次郎様達から離れて行く裕一郎様と華穂様。



なんだろう・・・・なんというか微妙だ。

新年会って普通こういうのだっけ?

親戚一同集まって賑やかに過ごすんじゃないんだっけ?

まるで親戚ではなく取引先とのパーティーのようだ。

けっして笑顔を崩さず柔らかく、それでいて相手には絶対に屈さない。

一見華やかに見えて、中身は腹の中の探り合い。

これが正月の風景だなんてゾッとする。



私は少しでも裕一郎様と華穂様が心安らげるようサポートしようと、こっそり後をついて行くことにした。

えー、腹がたつ展開が続きます。

しばらくヒーローズは出てきません!

滅多打ちにされたのを慰めてもらうのも嬉しいよね(


なんだか山場を過ぎたはずなのに暇にならない・・・・なぜだ。

明日明後日も予定があるのですみませんが、おそらく更新できません。


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