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「装飾品よし、常温の食品のセッティングよし・・・・っと。」
お客様を迎える最終チェックを行う。
本日お越しになるのは、高良田家の親族およそ80名。
私も華穂様もお会いしたことがない方がほとんどだ。
「大広間の確認は終わりました。
再度、エントランスから応接室までに不備がないか確認お願いします。
応接室には和洋のお茶とお菓子の準備を。」
開始時刻まで残り30分。
早いお客様はぼちぼちおみえになる頃だろう。
高良田家は古い歴史を持つ家だ。
裕一郎様ご自身は一人っ子だが、先代や先先代などの分家を含めると親族数はかなりのものになる。
家系図的には繋がっていても、もはや親族として数えていいのかもわからないくらい遠い繋がりの者が集まるのは、高良田グループが親族経営の企業だからだ。
ここでの粗相は高良田当主としても、グループトップとしても裕一郎様の顔に泥を塗ることになる。
絶対に失敗できない。
『平岡さん、今、辰次郎様の車が門を通りました。』
門の管理をしている警備の人間から連絡が入る。
「わかりました。お迎えにいきます。
みなさん、辰次郎様がいらっしゃいました。
誰か裕一郎様と華穂様に連絡を。
手の空いてる方はエントランスでお出迎えをお願いします。」
簡単に指示をすると私は急いで外に出た。
黒塗りのリムジンが来たのは、私がちょうどエントランスから出て姿勢を整えた時だった。
運転手にドアを開けられて、紋付袴来た老人が車から降りてくる。
高良田 辰次郎
先代の弟、つまり裕一郎様の叔父様に当たる方だ。
今でこそ引退されているが、高良田グループの子会社の重職を歴任した重鎮だ。
もう70を超えていらっしゃるはずだが、その背筋はピンと伸びており風格というものを感じさせる。
その後ろから長男の一臣様、奥様たちやお孫様と次々に辰次郎様ご一家が降りてくる。
「お寒い中、お越しくださりありがとうございます。
どうぞ中にお入りください。」
エントランスの扉を開けるとすでに裕一郎様と華穂様。
それに手の空いている使用人が揃っていた。
「叔父さん、ご無沙汰しております。
お元気になられたようで安心しました。」
「ふん。
周りが大げさなだけだ。別にパーティーくらい参加できたわ。」
辰次郎様は創立記念パーティーに出席されていない。
ちょうどその前に体調を崩されて、急遽参加をキャンセルされていた。
「いや、今回は参加人数が多かったですからね。
ひっきりなしの挨拶で、叔父さんがお元気でも気疲れしていたと思いますよ。
叔父さんに変わって一臣さんが動き回ってくれたんで、それでよしとしてください。」
「それくらい当たり前だ。」
・・・・・・どうやらなかなか厳しい人物のようである。
高良田の親族はゲームには登場しない。
一応、今回の新年会のために簡単なプロフィールは頭に入れているが、人となりまではわからない。
華穂様にはあまり厳しくないといいのだが・・・・・・・。
「叔父さん、創立記念パーティーでお会いできなかったので遅くなりましたがここでご挨拶を。
娘の華穂です。」
「初めまして。辰次郎大叔父様。
華穂と申します。これからどうぞよろしくお願いいたします。」
華穂様が美しい所作でお辞儀をする。満点だ。
「あぁ、源一郎兄上が猛反対した女との子か。
見目はまあまあだな。これならそこそこの家にやれるだろう。」
・・・・・・・・・・・性格悪い。
さすが兄弟。裕一郎様と夏実様の仲を裂いた先代と同じ思考のようだ。
あんまりな発言だが、華穂様は困った顔で笑うだけで、裕一郎様に至っては笑顔をぴくりとも崩さない。
腹のなかは煮えくり返っているだろうに流石である。
「エントランスで立ち話もお辛いでしょう。
他のみんなが来るまで応接室でおくつろぎください。」
辰次郎様と裕一郎様を先頭に、ぞろぞろとみんな応接室に向かっていく。
1組目でこれだ。
新年会は大荒れに荒れる予感がした。




