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「大切に食べる。」


「はい。溶けてしまいますので、帰ったら冷蔵庫に入れてください。」



嬉しそうにお菓子を握りしめる流を微笑ましく思うと同時に、溶けるんじゃないだろうかと若干心配になる。



「クリスマスプレゼントは気に入ったか?」


「はい。どれも大変素敵でした。」



豊福デパートの本田さんとともにやってきたプレゼントは、高価だし大量だしで受け取るのにものすごく躊躇した。

結局、にこやかな本田さんに押し切られて受け取るしかなかったが。



「着物も贈ればよかったな。

今のものもとてもよく似合っているが、どうせなら俺が選んだものを着せたい。」


「いえ、先日頂いた分だけで十分です。」


むしろお返ししたいくらいです。


「気にするな。俺がお前に着せたいだけだ。」


・・・・・・・気にします。



私は大きくため息をついた。



「流様、お気持ちは大変嬉しいのですが、私にはあんなに高価なプレゼントを頂く理由がありません。」


「婚約者にプレゼントを贈るのは当然だ。」


「婚約をした覚えはありません。」


「相変わらず強情だな。」


「そういう問題ではありません。」



今度は流が大きなため息をついた。



「好きな女へのプレゼントに理由が必要なのか?

百歩譲って婚約者ではないというのなら、お前を振り向かせるためのアピールだと受け取っておけ。」



『好きな女』という言葉に、また顔が赤くなる。

・・・・・・流と一緒にいると赤くなってばかりだ。



「・・・・・・・そもそも私には流様に好きになっていただく要素がありません。」



家柄も財力も何もないし、性格だって硬くて捻くれている。

容姿だって恵まれた方だとは思うが、服装の傾向から考えられる流の好みとは真逆だ。

流の好みは可愛らしくてふわふわした感じの女性だ。

・・・・・・・華穂様のような。



「・・・・・・流様は私のどこがお好きなのですか?」



「わからん。」



わ、わからん??



「条件でいえば会社のためにも華穂がいいのはわかっている。

だが、食事を作って家で待っていてくれるのもこうやって隣に座るのも華穂ではダメだ。

何故だかはわからないがお前でないとダメだというのはわかる。」



何それ・・・・・・・・・。



「そもそも、俺は恋というものをお前以外にしたことがない。

世の中の奴らはそんなにはっきり自分の気持ちを説明できるのか?」



・・・・・・・・まあたしかに・・・・・・。


元彼のことを思い出すが、はっきりどこがどう好きだったかと言われると返答に困る。

優しかったところとか一緒にいて安らげるところとかいろいろあるが、説明しようがないような気持ちも確かにある。



「気持ちが重要だと言ったのお前だろう。

だから俺も気持ちのままに動いているだけだ。

お前がいう『要素』がどんなものかは知らんが、それがお前にないというのであればそれは俺の気持ちを決める上で必要ないものだ。


お前はただ俺の言葉を信じていればいい。」



・・・・・・・・・本当にずるい。


ちょっと前まで子供みたいな顔して遊んでたくせに。

今度はそんな男っぽくなるなんて。

胸が詰まるような感じがして息が苦しい。



「お前に俺が選んだ服を着せたいのも、ただの俺のわがままだ。

お前が遠慮する必要はない。

好きな女を着飾らせるのは男の楽しみだ。

大人しく受け取っておけ。」



なんだか何も言えなくなって私は手の中のお菓子を1つ食べた。

私のチョコ味のクッキーはバニラ味に比べてほろ苦かった。







待ち合わせ場所に現れた華穂様と空太は、はぐれる前より明らかに仲が良くなっていた。

幸せオーラというのか甘い空気が漂っている。

ふたりでいい時間が過ごせたようだ。



「はぐれちゃってごめんね。唯さん。」


「いえ、ご無事でなによりです。

楽しかったですか?」


「うん、とっても。」



ちらっと空太を見た後に染まった頬とはにかむような笑顔。

本当に楽しかったことがうかがえる。

・・・・・・・・・こっそり見たかったなぁ。



「唯さんと流は楽しかった?」


「あぁ、射的というものをやった。

あれはなかなか面白かった。」


「射的かぁ。わたしもやったことないからやればよかった。」


「お前ギリギリまで食べててそんな時間なかっただろ。」


「うっ・・・そりゃあそうだけど・・・・・・。」



弾む話にひとつ手を叩いて注目を集める。



「楽しい話は帰り道でしましょう。

あまり遅くなると明日に響きますので。」



射的の話や華穂様達が食べた食べ物の話しながら帰路につく。

行きよりも賑やかな車内で膝の上から『ブーン』という音がすることに気がついた。


巾着の中に入れた携帯のバイブ音のようだ。

帰りが遅いから裕一郎様からかかってきたのかもしれないと思い、慌てて取り出し電話に出ようとする。




『皇 一弥』




電話に出ようと動いていた手は、そのままカチっと固まった。


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