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機嫌がよさそうな流と手を繋いで歩く。



「あれはなんだ?」


「あれはお面です。」


「お面?」


「子供がかぶって遊ぶものです。」


「それが楽しいのか?」


「子供にとっては好きなお姫様やヒーローになれた気がして楽しいものです。」



相変わらず流の『なんだ?』が止まらない。



「あれは?」


「光るおもちゃです。」


「光ってどうなる?」


「光ることが楽しいんです。」



子供時代も帝王教育で育った流は、子供心がわからないようだ。



「流様、お腹は空きませんか?」


「そうだな。何か食べるか。どれがお勧めだ。」


「・・・・・さぁ?」



なんたって6年ぶりだ。

見たことのない屋台が大量にあっておすすめなんてわからない。

どうせならフードコートで食べられそうな焼きそばやお好み焼きよりも見たことのないものが食べたい。



「流様、あれなんてどうでしょう?」



私はキャンドルボーイと書かれた屋台を指差した。

なんだかぐるぐる巻きになったホットドッグのようなものがいっぱい台に刺さっている。



「ロウソク少年?」



直訳する必要はないと思う。



「ぐるぐる巻きがロウソクのように見えるからではないでしょうか。

ソースも選べるみたいですし、わたしはこれにします。

流様も食べますか?」


「あぁ、俺は生姜醤油にする。」


「かしこまりました。おじさん、生姜醤油と胡麻味噌を一本ずつください。」



お金を払って受け取った1つを流に渡す。

香ばしい香りがたまらない。

ホットドッグのようの甘い生地ではないようだ。

熱々にかぶりつく。


「あっつ!!」


予想外の食感と想像以上の熱さに思わず口を離す。



「大丈夫か!?」



慌てたように顔を覗き込んでくる流に大丈夫だと頷く。



「すみません、思っていたよりだいぶ熱くて驚いてしまいました。

これは餅を揚げてあるみたいです。

気をつけてお召し上がりください。」


「・・・・・・ここで食べるのか?」



見ると、流が微妙そうな顔をしていた。


あぁ、食べ歩きという発想がないのか。

さすがお坊ちゃん。



「そうですね。もうあまり時間もないですし、集合場所に行きながら座れる場所を探しましょうか。」



扉のところに戻りながら座れそうな場所を探すが、どこもすでに先客がいる。



「空いていませんね・・・・。」


「これだけ人がいれば仕方ない。

扉の向こう側なら空いてるだろう。あとでここまで戻って来ればいい。」



たしかに関係者エリアに入れば誰もいないから座り放題だろう。

侵入の許可は得ているのだから遠慮もいらない。



扉を閉めて人混みから扉一枚隔てると一気に静かになった気がする。

さすがに関係者エリアにベンチなどないので、近くに見えた社殿の階に腰をかける。


キャンドルボーイは先程より随分食べやすい温度になっていた。



「ずいぶん変わった食べ物だな。餅の中にソーセージが入っているぞ。」


「そうですねぇ。まさかの組み合わせですが、美味しいです。」



カリカリもちもちな外側とジューシーなソーセージがとてもよく合っている。



「思いついた奴はなかなかの発想力だな。」



流はいたく気に入ったらしく、ほくほく顏で食べていた。


塩辛いものを食べた後は甘いものが食べたくなる。

私は先程射的で落としたお菓子を巾着から出す。



「食べますか?」


「いや、俺も持っているからな。」



自慢気に流がコートから同じく射的で落としたお菓子を出す。

見てみると流が落としたお菓子も私が落としたお菓子も同じものだった。

バニラ味とチョコ味の違いはあったが。



チョコ味のクッキーをサクッと食べながら思い出す。



「流様。」


「なんだ、俺のも欲しくなったか。いいだろう。口を開けろ。」



・・・・・・・なぜ名前を呼んだだけでそんな結論に??



「早くしろ。」



いそいそとクッキーを私の口の前に持ってきて待ち構えている。

仕方なく口を開ける。・・・・・ここで断ればまた面倒なことになりそうだし。

バニラ味のクッキーが口に押し込まれる。

・・・・・・甘い。



「俺にもそっちをよこせ。」



・・・・・・・・・・・。

おずおずと箱ごと差し出すが、もちろん流は口を開けて待っている。

おかしい・・・一弥の時はきっぱり断れたのに。


・・・・・・・・・・・。



「じゃあ、目を閉じてください。」


「なぜだ。」


「秘密です。目を閉じなければあげません。」



やられっぱなしじゃちょっと悔しいから。



流はちょっとへの字口なったものの目をつぶって大人しく口を開けた。


開かれた口に手元のクッキーではなく、持っていた巾着の中から出したものを入れる。

目をつぶったままもぐもぐと口を動かす流の眉間にだんだんシワが寄ってくるのを見ながらほくそ笑む。


すっかり口の中を空にした流が目を開ける。



「なんだか思っていたものと違ったんだが。」


「そうですか?

流様には食べなれないものですから、想像と違ったのかもしれませんね。」


「・・・・・いくら俺でもチョコ味のクッキーとチョコの違いくらいわかる。」



そう、私が流の口に入れたのは、先日華穂様とともに作った生チョコだった。

目をつぶって困惑したような顔をしていた流を思い出して溜飲を下げる。



「それにかなりいい酒とカカオの香りがする。

こんな露店で売ってるものじゃないだろう。」



・・・・・・さすが。舌が肥えていらっしゃる。



「で、何を俺に食べさせた?」


「さぁ?なんでしょう??」



なんとなく素直に言いたくなくてしらばっくれる。



「言わないならお前の分を全部食べるぞ。」



そう言って私の手首を掴んでお菓子の箱ごと私を引き寄せる。

・・・・・・・お菓子全部食べるが脅しって。

どれだけ流の中でお菓子が重要なものなんだ。

100円もしないであろうお菓子に大金持ちのイケメンが執着してるのがおかしくて笑ってしまう。



「何を笑っている。」



みるみるうちに流の顔が不機嫌になっていく。

あー、おかしい。ここら辺が引き際かな。



「すみません。食べさせたのはこれです。」



巾着から生チョコと スノーボールを差し出す。



「クリスマスプレゼント、ありがとうございました。

ささやかですがお礼です。

作ってから日にちが経ってますので、三が日中には全部召し上がってください。」


「お前が作ったのか?」


「華穂様とふたりで作りました。」


「そうか。」



射的で落としたお菓子以上に嬉しそうな、大切そうな顔をして差し出したものを受け取ってくれる。

とてもくすぐったい気持ちになった。




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