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華穂視点。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
「お前ご機嫌だなぁ。」
空太の呆れたような声も気にならないくらい今の私はご機嫌。
右手にりんご飴とたこ焼きの袋を持って、左手にはわたあめ。
空太はホットドッグとイカ焼とふりふりポテトと焼きそばを持ってる。
これからゆっくり食べるのが楽しみで仕方ない。
人の多い道から外れて、座れそうな場所を探す。
境内に端っこに小さなお社があって、その横にベンチがあった。
「静かだね〜」
誰もいない静かな場所。程よく離れたところから聞こえる喧騒とあたたかな光が心地いい。
お社にお参りしてからベンチに買ってきたものを広げる。
「「いただきます。」」
「うん、おいしい!」
わたしがまず手をつけたのはイカ焼。
タレの甘辛さとイカの旨味が口に広がってつい顔がにやけちゃう。
家のご飯も空太の料理ももちろん美味しいけど、こういうのはまた違った美味しさがあってやめられない。
「ポテトもうまいぞ。」
言われてポテトを手に取るとふわんと海苔塩のいい香りがした。
「ファーストフードとかではよく見るけど、今は出店でもふりかけポテトってあるんだねー。」
出かける前に年越し蕎麦も食べたのに、たくさん買った食べ物がどんどん消えていく。
「夏祭りとか初詣とか大体毎年来るけど、その度に見たことない屋台増えてんだよな。」
「じゃあ、珍しい屋台の方がよかったかな。」
ふりふりポテト以外みんなど定番を選んじゃった。
「これはこれでいいだろ。
よく見るってことはそれだけうまいんだし。」
「それもそうだね。」
たこ焼きに箸を伸ばす。
大きなタコがゴロッと入ってて美味しい。
「なんかこうやって空太と外で食べるのも久しぶり。」
「そうだなー。平日はお前の予定がぎっしりだもんな。」
施設で仕事してた頃は休みが合えば空太の料理の勉強ってことであっちこっち食べに行ってた。
施設だと土日関係なくシフト制だったから平日の休みが合うことが多かったんだよね。
それが引っ越してから土日休みになったから、なかなか空太と休みが合わない。
最近は空太がうちに来るようになったし、ますます外でって感じじゃなくなったからこういうのちょっと嬉しい。
他愛ない話をしながら食べ進めていく。
あっという間にがっつり系の食べ物はなくなった。
「お腹いっぱーい。デザートデザート♡」
「いっぱいなんじゃないのかよ・・・。」
「甘いものは別腹!」
りんご飴の袋を取る前にスマホで時間を確認する。
待ち合わせの時間まであと20分。食べ終わってから移動したらちょうどいい時間。
「それ・・・・つけてくれてんだな。」
空太の視線をたどると、そこにはわたしのにぎってるスマホがあった。
ちょっとぐでっとしたパンダのストラップのついたスマホが。
「・・・・・うん。」
ちょっと赤くなりながら頷く。
このストラップはクリスマスに空太から貰ったプレゼントの1つ。
このぐでっとしたパンダはわたしが中学の時に流行ったキャラクターでわたしも大好きだった。
今はすっかり見なくなってしまったから、これは中学の時に準備してくれたものだってわかる。
「それにこれも。」
そっと空太がわたしの耳に触れる。
耳には同じ日にもらった桜のイヤリングがついている。
「クリスマスにもらったものは全部大切に使ってるよ。
クマのぬいぐるみはベッドの所に飾ったし、ペンもちゃんとペンケースに入ってる。
アクセサリー類は着物に合わないから今日はつけてないけど、洋服の時は使わせてもらうね。
・・・・・・・・空太もありがとう。」
空太の首に巻かれたマフラーに触れながら言う。
わたしがあげたマフラー。ちゃんと使ってくれて嬉しい。
「これのおかげで全然寒くねぇ。ありがとな。」
「ううん。」
なんだか急に照れくさくなってりんご飴齧った。
飴のじゃりじゃりした感じとリンゴの酸っぱさがちょうどいい。
「それって美味いのか?」
「あれ?空太ってりんご飴食べたことないの?」
「あぁ。それ結構でかいだろ。それで腹一杯になるくらいなら他の食った方がいい気がして。」
「リンゴが爽やかだからそんなに重くないよ。
はい、どーぞ。」
手に持っていたりんご飴を串ごと差し出す。
手渡すつもりで差し出したのに、空太わたしの手ごと取って噛り付いた。
ガリッっという音で一口分のりんご飴が空太の口の中に消えていった。
「あぁ、確かにこれはうめぇな。結構いいバランス。」
「う、ううううううん!そうだよね!!美味しいよね!!」
なんとか返事をするけど正直それどころじゃない。
手は空太に串ごと握られたままだし、引っ張られてるから距離が近い。
うーーーーー、ドキドキする!
「もうひとくちいいか?」
「も、もちろん!全部食べてもいいよ!!」
だ、だから手を・・・・・・
そう続けたかった言葉は口から出る前に止められた。
空太の唇で。
柔らかくふにふにした感触が唇に当たる。
視界いっぱいに伏し目がちな空太の顔が広がる。
しばらくわたしの唇にの上でふにふに動いていたそれの感触は、最後にペロリとそこを舐めると離れていった。
「・・・・・・やっぱ甘いな。」
な・・・な・・・な・・・な・・・・・・・!!!
自分の顔がりんご飴みたいに赤くなっていくのがわかる。
なんだか突然で叫びたい衝動に駆られたけど、それをしなかったのは空太の顔もりんご飴みたいに真っ赤だったから。
「・・・・・もう一回、いいか?」
赤い顔をした空太の視線は真っ直ぐで、恥ずかしいけどわたしはこくりと頷いた。
空太の顔がゆっくりと近づいてくるのに合わせて、そっと目を閉じる。
また感じる柔らかいふにふにした感触。
啄むようにくっついたり離れたり。
ふたりで何度も『もう一回』を繰り返す。
りんご飴の味はいつの間にか消えちゃったけど、それでもとっても甘かった。
この作品は『ベタなシチュ』でできております。
ちょっと本編の方の筆が乗ってるので、しばらく本編更新予定です。
小話の方はしばらくお待ちください。




