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流と手を繋いで歩く。


右手をつないだまま、左手で華穂様に電話をかける。

やはり繋がらない。

キャリアや機種が違えば繋がるかもしれないと思い、今度は空太にかける。

しばらく待つとコール音が鳴った。



「よかった。空太様には繋がりそうです。」


「貸せ。」


「ちょっ!」


それだけ言うと流はさっさと私から携帯電話を奪い取ってしまった。まだいいなんて言ってないのに。



「槙嶋だ。今どこにいる?・・・・・・・・・そっちか。今俺たちはお前たちと反対の北側にいる。

合流するのも面倒だ。お前も華穂とふたりの方が都合がいいだろう。

そうだな・・・・・今から1時間後に先ほどの扉のところに来い。それまでは別行動だ。」



流は勝手なことを言うとそのまま電話を切ってしまった。



「流様!!」



咎めるような声を出すが、どこ吹く風だ。



「なんだ。そんなに馬に蹴られに行きたいのか?」



うぐぐ。



「・・・・・・・・蹴られにいく気はないですが、勝手に話を決めないでください。」



ついでに言えば、華穂様の声を聞きたかった。



「結論が一緒なら誰が話しても一緒だろう。

ほら、いくぞ。」



流の強引さに仕方ないなとため息をついた。







参拝の列から離れるとまわりは屋台だらけだ。


カルメ焼きやお面など昔懐かしの屋台もあれば、ケバブやチヂミなど昔は見られなかった屋台もある。

屋台も国際色豊かになったなぁ。


流は食べ物よりも遊べる屋台が気になるようでくじ引きや輪投げについて聞いてくる。

なんだかこの間スーパーに行った時のようだ。



「射的とはなんだ?」


「銃で景品を撃ち落とすとそれがもらえる遊びです。」


「免許もなく射撃場でもないのに銃が撃てるのか。」


そんなわけはない。


「銃といってもおもちゃです。

銃口の先にコルクの弾を詰めて引き金を引くと、空気で弾が押し出されて飛んでいくんです。

やってみますか?」


「あぁ。」



目をキラキラさせる流は子供のようだ。

何度見ても可愛らしく思ってしまう。


屋台のおじさんのお金を払って弾をもらう。

弾は全部で5発。



「先に手本を見せますので、よく見ていてくださいね。」


「わかった。」



じーっと見つめてくる流の視線は真剣で、自分でよく見ておけと言ったくせにだんだんむず痒くなってくる。


台にしっかり肘をつき、銃を抱え込むように脇を締めて照準を合わせる。

製品はお菓子からゲーム機まで様々だ。

中には商品券などという夢のない景品まである。


・・・・・・きっとあの後ろには重りががっちりついててそうそう落ちないようになってるんだろうなぁ。


商品券が一番実用的ではあるが、見本で当たっても落ちないものに当てて楽しみを壊すのもしのびない。

私は確実に落とせそうなお菓子に狙いを定めた。



ポンッ



銃っぽくない音を立ててコルク弾が飛んでいく。

弾がお菓子に当たると同時に流が『おぉ!』っと歓声をあげる。

お菓子はカタコトと音を立てて落ちていった。



「こんな感じです。大丈夫そうですか?」


「あぁ。」



流の顔にはわかりやすいくらい『やりたい』と書いてある。



「おねえさん上手いねぇ。こりゃ兄さんも負けてらんないねぇ。」


「俺が負けるなどありえん。」



おじさんの言葉に自信満々に返す流が可笑しい。

どこから来るんだその自信は。



「じゃあおねえさんよりいい商品持って帰んないとなぁ。

ここのゲームとか商品券とかどうだい?」


「わかった。」



すっかりおじさんに誘導されて流は高額商品に狙いを定めた。

あーあ・・・・・・・。



ポンッ



音を立てて飛んでいったコルク弾は、残念ながらゲームにも商品券にも当たりもかすりもせず、なぜか天井に当たって垂直に落ちてきた。



「・・・・・・・・・なぜだ。」



・・・・・・・・むしろ私が聞きたい。

どうしてその構えで弾が天井に当たる??

物理法則を無視しているとしか思えない。



「次は大丈夫だ。」



すぐに次の弾をこめ、狙いを定める。



ポンッ



今度は地面に当たった。

またしても物理法則(以下略


流は無言で次の弾をこめた。



ポンッ


ポンッ



「あー、おにいさん残念だねぇ。」


「もう一回やる。」


「まいど!」



ポンッ ポンッ ポンッ ポンッ ポンッ



「最初の頃よりはだいぶマシになってきたけどなぁ。」


後半3発は天井や地面ではなく、景品台や景品を通り過ぎて奥のネットに当たっていた



「もう一回だ。」


「あいよ!」


ポポポポンッ


「もう一回!」


「そうこなくっちゃ!」


ポポポポンッ


「まだだ!」


「あとちょっとだから頑張んな!」



すっかりおじさんにカモられている。

いや、もしかしたらあまりの流の下手さ具合におじさんも本気で応援してる・・・・?



ちっとも当たらない弾と『もう一回』のやり取りを繰り返す男ふたりを眺める。

これは射的だけで1時間終わるかも・・・・。



そう思い始めた頃だった。



ポンッ



放たれた弾がゲームの横のお菓子をかすって飛んでいった。

グラグラとゆれるお菓子を流も私もついでに屋台のおじさんも固唾を飲んで見つめる。



パタンッポトンッ



「やったぞ!」


「いやー、にいさん頑張ったねぇ!!」



流がまったく含みのない満面の笑みで喜んでいる。

お尻にブンブン振られている尻尾が見える気がする。

・・・・・ワンコがいる。ワンコが。

顔は『どうだ。できたぞ!』と言わんばかりだ。



・・・・・まずい、可愛い。

流はこんなキャラだったろうか。

普段の俺様な態度とのギャップにキュンとしてしまう。

執事体験のときから薄々思っていたが、流は可愛い。

可愛い担当は隼人だと思っていたのに不意打ちだ。


思わず撫でそうになる衝動をぐっと堪える。


落ち着け。

相手は自分より年上で大企業のトップだ。



「よかったですね。流様。」


「はい、にいさんどーぞ。」



おじさんが流が落としたお菓子を手渡してくれる。



「せっかく頑張ってとったんだ。味わって食べなよ。」


「あぁ。」



大切そうにそれを受け取る流の姿にまた胸がドキンと音を立てる。



・・・・・・・・ずるい。



天は二物も三物も与えすぎだ。

容姿端麗、頭脳明晰、家柄良し、財力有り。

こちらが弱っているときは包容力もあって、逆に少年のような可愛らしさも持っている。

・・・・・・・・・最強すぎるだろう。

さすがメインヒーロー。

誰もが惹かれるはずだ。

たとえ彼が上流階級の生まれでなくとも、彼の魅力は損なわれないだろう。



早鐘を打ち続ける胸をなんとか落ち着かせようと私は何度も深呼吸をした。

ブクマありがとうございます。

なんだか急に増えていて嬉しいやらびっくりやら。

同じ勢いで減りそうで怖い・・・・・。

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