147
柏手を打ち祈る。
もちろん祈るのは華穂様の幸せ。
ゲームはもう終盤。
出来ることはやってきた。
後は神に縋ってでもハッピーエンドを迎えたい。
どうか華穂様が幸せになりますように。
空太がいつまでも華穂様と寄り添っていけますように。
「な、なんでもない。次の人待ってるから行こう!」
その声にゆっくりと目を開き拝むように俯きがちだった頭を上げる。
ちょっと祈りすぎただろうか。
確かに後ろが待っているから早めに退いた方がいい。
そう思って華穂様の方を見ると・・・・・・・・
さっきまで華穂様がいた場所では違う人が柏手を打っていた。
ついさっき隣で声がしたのに!?
慌てて見回すが人混みのせいか華穂様の姿はどこにも見えない。
ついでに空太もいない。
「流様!華穂様を見ませんでしたか?」
「わからん。華穂の声は聞こえたが俺が見たときにはもうそこにいなかった。」
は、はぐれた・・・・・。
とにかくここにいないことは確かだし、次の人の邪魔になるので、流れから外れて端に寄る。
慌てて電話をかけるがコール音すら鳴らない。
「どうしよう・・・・・」
この人混みの中を闇雲に探しても見つかる確率は低い。
顔から血の気がさぁーっと引いていく。
もし華穂様に何かあったら・・・・・・・。
悪い状況が複数頭の中に一気に思い浮かぶ。
「落ち着け。華穂なら大丈夫だ。」
「何を根拠にっ!!」
思わず何の非もない流に八つ当たり気味に食ってかかる。
「桜井が俺と同じ顔をしていたからだ。あいつは何があろうと華穂を守る。」
流の言葉が耳に入ってくるが、それが理解できずに思考が止まる。
「俺がお前を何があっても守るようにな。」
・・・・・・・・・・・。
ゆっくり流の言葉が頭に入ってきてじわじわ顔が赤くなる。
・・・・・・この男には照れというものがないのだろうか。
さも当然という風に微笑みながら言われて、どんな反応を返せばいいのかわからない。
「それとも桜井はお前が心配になるほど弱いのか?」
その言葉に不安と恥ずかしさで高まっていた緊張が一気にほぐれ、肩の力がストンと抜けた。
「どうでしょう。空太様の強さはわかりませんが、空太様でしたら全力で華穂様を守って下さるのは間違いないですね。」
そうだ。華穂様の騎士は決まったのだ。
いつまでも私が出しゃばっていいはずがない。
「そうだ。それに新年早々馬に蹴られたくはないだろう?」
「どうせ私はお邪魔虫です。」
付き合って1週間もしないカップルにくっついてまわるのが、お邪魔虫以外の何者でもないのはわかっているが、なんとなくムッとしてしまう。
「そうむくれるな。
それに俺の方も邪魔されたくはないからな。」
自然に手を取られ歩き出す。
行き先は流任せ。
流にさらりと好意を伝えられるとどうしていいのかわからなくなる。
男慣れしてる気の強い女を演じてる時に言われる一弥の言葉ならその場で強く跳ね返すことができるのに、流の前だとそれもできない。
流れてくる好意を受け取ることも跳ね返すことも出来なくて、それは私のまわりで常にふよふよ浮かんで私に問いかけてくる。
『私はどうしたいの?』
このまま流の気持ちに囲まれて身動きが取れなくなるんじゃないだろうか。
・・・・・・・いや、すでに取れていないのかも。
いつもの私だったら誰かに手を引かれて大人しくついていくなんて考えられない。
前の彼の時だって、私が先を進んでいくのを彼が優しく見守るような感じだった。
流されてる・・・かな。
ゲームのキャラクターとはいえヒロインとしてラブストーリーを楽しんだ男ふたりに言い寄られて頭がパンクしているのかもしれない。
一弥は受け入れられない理由があるからキッパリした態度が取れているが、特に拒む理由を見つけ出せない流にはどう対応していいかわからない。
ゲームの部分しか思い出せない前世の私はどういう人生を過ごしたのだろう。
普通の人と恋して普通に結婚して子供を持って死んだのか。
それともゲームのように紆余曲折あって運命の相手を見つけたのか。
もしくは今の私みたいに薄情な人間で一生独身だったのか。
前世を覚えていれば今の状況を打開するヒントがあったかもしれないのに。
私は中途半端な自分の記憶を恨めしく思った。




