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華穂視点。
並んで並んでわたしたちが最前列についたのは並び始めて1時間後だった。
1時間っていうと長く感じるけど、4人でお喋りしてたらあっという間だった。
3年前の初詣は短大の友達と一緒に来た。
その前に来たのはずっと前で、小学生・・・・まだお母さんが生きていた頃。
あの時はこんな風に好きな人と手をつないで初詣にくるなんて思ってもみなかった。
お母さんとくるのも友達とくるのも楽しかったけど、やっぱり好きな人とくるのは特別。
だって、楽しい上にすっごくドキドキしてる。
手を叩いて神様にお願いをする。
去年の春から今日までいろんなことがあった。
お父さんに会えて、唯さんに会えて、色んな人や今まで見たことのない世界と出会って、今で生きてて一番濃い一年だった。
大変なこともあったけど、とっても楽しかった。
神様、素敵な一年をありがとうございます。
今年は楽しかった気持ちをみんなにお返しできますように。
もっともっとみんなで楽しくなれますように。
お願いが終わって頭を上げる。
わたし以外はまだ手を合わせたままだった。
何をお祈りしたんだろう。
自分の左に立つ人の顔をじっと見る。
精悍な顔は静かに何かを願っていて、なんだかそれだけでドキッとした。
その目がゆっくりと開く。
「ん?どうかしたか?」
ぱちっと目があって慌てて逸らす。
見てたのバレちゃった・・・。
「な、なんでもない。次の人待ってるから行こう!」
空太の背中を押して列から外れる。
なんだか恥ずかしくてグイグイ押してその場を離れていく。
空太の背中は大きいから前が見えない。
だからわたしは押していくだけ。
行き先は空太次第。
・・・・・・・・・で、気がついたら唯さん達がいなかった。
「お前な、押すんだったら後ろくらい確認しとけよ!」
「ごめんなさい・・・・。」
さっきの行列と違って参拝が終わった人の流れはバラバラで歩く速度も速い。
唯さんも流も背は高い筈なのに影も形も見当たらなかった。
「とりあえず電話を・・・・・。」
唯さんに電話をかけてみるけど、新年で回線が混み合っているのかコール音がなかなか鳴らない。
やっと鳴り始めたコール音も何もしてないのにぷつっっと切れてしまった。
「どうしよう・・・・・。」
さっきまでの楽しかった気分がぺしゃんと潰れていく。
「あぁ、ほら!そんな顔すんな!
しばらく待ったら電話もつながるかもしれねぇし、それまで時間つぶしにその辺まわるぞ。」
空太がわたしの手を握って人混みの中を引っ張っていく。
その背中がなんだか頼もしく見えてちょっとだけ気持ちが軽くなった。
露店をひやかしてまわる。
スパーボールすくいにわたあめ、イカ焼きに肉巻きおにぎり、フライドポテトやたこ焼き。
見てるだけで楽しそうだしヨダレが出てくる。
「なんか食べたいものあったか?」
本音を言えば全部食べたい。
でも、さすがにそんなに入らないから・・・・・
「あ、あれ!あれ食べたい!!」
わたしが指差したのは焼きそばだった。
あれならお箸二膳貰えば2人で分けられる。
「ふたりで半分こしよう。」
「いいな。じゃあ、いろいろ買っていってちょっと静かなところでゆっくり食うか。」
「うん!」
頷いた瞬間、空太のスマホから着信音が鳴った。
「もしもし。
・・・・・・・はい。俺たちは南側の・・・・はい、・・・・・・わかりました。
じゃあ1時間後に。」
「もしかして唯さん?」
「いや、槙嶋さん。
なんかお前の携帯全然繋がらないから、唯さんの携帯で俺のにかけてきたらしい。
で、ふたりとも北側の俺たちと正反対のところにいるらしい。
時間も時間だし、1時間後にさっきの関係者エリアに入る扉のところで合流して帰ろうってさ。」
「連絡ついてよかったー。」
ほっと胸を撫で下ろす。
「これでなんの心配もなく遊べるな。1時間しかないんだからすぐ行くぞ。」
「うん!」
新年にメールやメッセージが届きにくいのは知ってますけど、電話ってどうなんでしょうね?
とりあえず作中では届きにくいということにしておいてください。
次回の更新はおそらく本編になります。
明日でとりあえずプライベートの山場は超える・・・・・。




