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キリがいいのでちょっと短め
銀鱗軒の前で空太を拾う。
後部座席のドアを開けるために一度助手席から降りようとしたが、華穂様が内側から開ける方が早かった。
「あけましておめでとう、空太!」
華穂様の可愛らしい声が後ろから聞こえる。
扉は開け損なったが助手席からの挨拶も失礼かと思い車から出たら、挨拶どころではない空太の姿があった。
開けられた扉の前で立ち尽くしている。
その目は大きく見開かれ、片手で口元を覆われた顔は夜にもかかわらず赤くなっているのがはっきりわかるほど色づいている。
内心ニヤニヤと先ほどの華穂様と裕一郎様のように眺めてしまう。
「おまっ・・・なんて格好して・・・・・・っ」
青春だなぁ。微笑ましいなぁ。
「あぁ、これ?似合う?
振り袖って初めて着たけど綺麗だよねぇ。
この襟巻き?も可愛いし。」
ほのかに光沢のある桃色の生地に金糸銀糸で蝶が刺繍された着物は華美すぎず、華穂様の可愛らしさと上品さを引き立てている。
華穂様が動くたびに微かに光を反射して刺繍や生地がきらめくのがまるで天女のように見える。
ふっかふかの真っ白なファーも華穂様の愛らしい容姿にぴったりで空太でなくてもノックアウトされそうだ。
「ま、馬子にも衣装だなっ!」
素直になれない男子定番のセリフを吐く空太。
お約束すぎて更にニヤニヤしてしまう。
「あけましておめでとうございます。空太様。
ささ、寒いですから中にお入りください。」
そう言って照れて大人しく座りそうにない空太をちょっと強引に押し込んだ。
後ろでは華穂様と空太が『馬子にも衣装』の件でガヤガヤと言い合ってる。
私はそれを微笑ましい気持ちで聞いていた。
「楽しそうだな。」
「そうですね。おふたりとも本当に仲がよろしくて。」
「違う。お前のことだ。」
ん?私??
「さっきからずっと笑っている。」
・・・・・・・ニヤニヤが顔に出てしまっていたらしい。
慌てて顔を引き締めた。
「・・・・・主人の幸せは私の幸せですから。」
「そうか。」
それだけ言うとそのまま流は口を閉じた。
また後ろの声に耳を傾ける。私と流の会話には全く気がつかず後ろは相変わらず賑やかだった。
しばらくすると流がポツリと口を開いた。
「お前の言っていることの意味がわかった気がする。」
ん?
「俺はお前が楽しそうだと嬉しい。
これはお前が華穂が幸せだとお前も幸せなのと一緒だろう?」
んんん??
「華穂の幸せがお前の幸せであるように、お前の幸せは俺の幸せだ。
つまり俺のライバルは華穂だな。」
しれっと言われた告白のような言葉に一気に顔が赤くなる。
私が返事をしないことで車内に沈黙が落ちた。
・・・・・え?沈黙??
恐る恐る後ろを振り返ると華穂様も空太もじーっとこちらを見ていた。
「流、かっこいいこというね!
よーし、唯さんを好きな者同士ライバルとして認めてあげよう!!」
「望むところだ。」
華穂様の言葉に流が不敵に笑う。
「華穂の幸せではなく俺の幸せがこいつの幸せになるようにしてやる。」
「わたしと唯さんの絆はつっよーいんだから!そう簡単になれると思ったら間違いだからね。」
もうどこから突っ込んだらいいかわからない。
えーっとえーっと・・・・・・。
「じゃあ私は空太様から華穂様を奪うことにします。」
「はぁっ!?」
考えてもわからないのでその場のノリに乗ることにした。
傍観者でいる気の空太も巻き込んで。
「可愛らしい華穂様を空太様の独り占めになんてさせません。華穂様と会いたければ私を倒していってください。」
「・・・・・まさかの伏兵。しかも今まで蹴散らしてきたどんな相手より強そう・・・・・。」
がっくりと空太が項垂れたところで車内が笑いに包まれた。
というか空太よ。
やっぱり今までいろんな相手を蹴散らしてきたのか。
でなきゃこの年齢まで華穂様に彼氏が出来ないのもおかしいもんなぁ。
初めて流にあった時なんてすごい顔してたし。
今まで一生懸命虫除けしてきて、最後にイケメンに掻っ攫われなくてよかったねぇ。
と、こっそり心の中で思った。
昨日、小話に新しい話を1つ投稿しています。
おそらく本編の1エピソードと同じくらいの長さになるので、本編と同時進行でまったり進めていこうと思っています。
よろしければお目通しください。




