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いよいよ前半のトリである一弥の番になった。
『いやー、皇さん。今年は去年にも増して本当に大活躍でしたね。』
『ありがとうございます。今年は色々なことにチャレンジさせてもらってみんなに新しい自分を見てもらえたと思います。』
『今着ていらっしゃる白い衣装も今年の皇さんを象徴する衣装ですね。』
『えぇ。まさか自分がこんなに真っ白になるなんて去年の今頃は思ってなかったですね。』
『ずばり来年の目標は?』
『そうですねぇ・・・。結婚したいですね。彼女と出会って新しい世界が広がったんで。』
ブフッ!?
危うく食べていた年越し蕎麦を噴き出しそうになった。
驚きで一瞬テレビ内の会場が静寂に包まれたが、すぐに我に返った司会者が一弥をステージに送り出した。
「唯くんも罪な女だねぇ。」
ハハハと笑いながらいう裕一郎様と
「流がこれ見てないといいけど・・・・。」
と心配そうな顔をする華穂様。
いっそ私も見なかったことにしていいかな。
番組終了後ニヤニヤしながら私の抗議を待っている一弥の姿が見えるようだ。
「華穂様、私はこの番組を見ていませんでした。
そういうことにしておいてください。」
「・・・・・・・・それで収まるといいね。」
華穂様の同情溢れる視線が痛かった。
流は11時45分。
ちょうど音楽番組が終わった頃に邸に来た。
11時過ぎには準備に入っていたが、終わらなかったので裕一郎様に応接室での対応をお願いする。
準備が終わり応接室の扉を開けたのは0時の鐘がちょうどなった時だった。
「あけましておめでとうございます。お父さん、流。」
艶やかな桃色の振袖を着た華穂様が美しい姿勢でお辞儀をする。
「あけましておめでとう。ふたりとも良く似合っているね。」
「あけましておめでとうございます。
裕一郎様、振袖ありがとうございます。」
私は白に紫のグラデーション生地に色とりどりの花がついた振袖を着ている。
裕一郎様がご厚意で準備してくださった。
「せっかくなら綺麗な華は多い方がいいからね。
それに誰よりも喜んでくれそうな人もいることだし?」
・・・・・・・遊ばれてるんじゃなくてご厚意だと思わせ てください・・・・・。
裕一郎様のいう喜んでくれそうな人はほんのり頬を染めてぼーっとしていた。
その様子を華穂様と裕一郎様がそっくりな顔でニヤニヤ眺めている。
・・・・・・・・・さすが親子。
「お待たせいたしました。流様。」
流はハッとしたような顔をするとそのまま視線を逸らした。
「いや、大丈夫だ。
あまり遅く帰るのも高良田社長が心配するだろう。
すぐに出るぞ。」
「はい。それでは裕一郎様、いってまいります。」
「いってきます。あと、おやすみなさい。」
「気をつけていっておいで。
じゃあ悪いけど槙嶋くん華穂たちのことを頼んだよ。
桜井くんにもよろしく。」
「あぁ、責任もって預かろう。」
こうして裕一郎様に見送られ、私たちは車へ向かった。
後部座席のドアを開けて華穂様が乗り込んだあとに続く。いや、続こうとした。
「何をしている。お前はこちらだ。」
見ると助手席の扉を開けた状態で流が待っていた。
「いえ、私は後ろで・・・・・。」
「そこには桜井が来るだろう。」
「唯さん、私はひとりで大丈夫だから。」
いや、大丈夫じゃないのは私です。
華穂様の見当違いの気遣いに思わず本音を言いそうになる。
・・・・・・気遣ってくれてるんですよね?遊んでるわけじゃないですよね??
・・・・・・・・だめだ。最近疑心暗鬼だ。
渋々助手席に座ると流は静かに扉を閉めてくれた。
車が滑るように滑らかに走り出す。
「車出してもらってごめんねー。」
「俺から言い出したことだから気にするな。」
運転席と後部座席で華穂様流が会話をする。
・・・・・・華穂様が助手席の方が良かったかな。
絶対却下されるだろうけど。
主人が他の人と話している時は基本的には求められなければ口は挟まない。
私は助手席で大人しくしているだけだ。
「あ、流。後でいいから連絡先教えて。」
大人しく大人しく・・・・
「急にどうした?」
「ほら、今回唯さんの予定を確認するのお父さんに頼んだでしょ?
唯さんの仕事は大体わたしにくっついてることが多いから、わたしに直接言ってもらった方が早いかなぁと思って。」
・・・・・・・・・・華穂様、私を売渡す気マンマンですね。
ドナドナってこんな気分だろうか。
たぶん次回は小話にバカ噺UPになると思います。




