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「あのね、元旦に空太と一緒に初詣にいきたいの。」
華穂様がそう言ったのは、空太と想いを通わせた2日後のことだった。
あの日、華穂様は屋敷に帰ってきてから頬をバラ色に染め、空太に気持ちを伝えたことを報告してくれた。
こっそり影から見ていたので知っていたが、報告してくれた時の笑顔が本当に幸せそうで、私は再び涙ぐんでしまった。
涙が溢れてしまった私を華穂様が抱きしめ『ありがとう、唯さんのおかげだよ』といってくださったことは一生忘れないだろう。
・・・・・・その後の『次は唯さんの番だね♡』という言葉も別の意味で忘れられないが。
「しかし、元旦はこちらで新年会の予定ですが・・・・・・。」
11時から高良田一族郎党が集まる新年会がある。
ホスト側であり今回が初参加の華穂様が欠席するわけにはいかない。
「うん、だから夜中に行こうかなぁと思ってる。」
その言葉に顔には出さないが、内心眉を顰める。
空太と一緒とはいえ深夜、しかも年越しの初詣というもっとも人が多い場所だ。セキュリティ面で不安がある。
私が一緒にいければいいのだが、付き合い始めホヤホヤのカップルにくっついていくのはどう考えても邪魔だろう。
「・・・・・・・一度、裕一郎様に相談してみますので空太様へのお返事はお待ちください。」
裕一郎様は外出中だ。夜まで帰ってこない。
とりあえず時間を稼いで対策を考えることにした。
夕食の席で話を切り出したのは裕一郎様からだった。
「実は大晦日から元旦にかけて唯くんを貸して欲しいと槙嶋くんから依頼があったんだが・・・・。」
はぁ!?
「君と初詣にいきたいらしくてね。私は華穂と君さえよければいいと思うんだが、どんな返事をしたらいいかな?」
ニヤニヤしている裕一郎様の視線が痛い。
そりゃあ私の行動は裕一郎様の許可がいるとは伝えてあったけど、私すっ飛ばして裕一郎様に直接とか・・・・・。
顔には出さないが泣きたくなってきた。
「あ、お父さん。わたしも空太と初詣にいきたいの。いってきていい?」
華穂様が渡りに船だと自分の希望を伝える。
裕一郎様は華穂様の食事中に外出から帰ってきて、そのままテーブルにつかれたのでまだ初詣の件を相談できていなかった。
「じゃあ、唯くんと槙嶋くんと4人でいってきたらいい。唯くんと一緒なら私も安心だからね。」
「・・・・・・・・かしこまりました。」
否やを言えるはずもなく、私は大人しく状況を受け入れた。
大晦日----------
普段の忙しさから解放されてのんびりと過ごす華穂様と裕一郎様を尻目に、邸内は元日の宴に向けて大わらわだった。
一族郎党集まるのはこの新年会しかなく、一年で一番のイベント・・・・らしい。
邸内の差配をするのは執事の役割なので腕の見せ所といいたいところだが、如何せん私も初めてである。
先輩の使用人達に教えてもらいながら、進行具合をチェックしていく。
気がついた頃には夜になっており、ふっと息をついたところで華穂様に引っ張られ、何故か裕一郎様の座るソファーに並んで座らされた。
私を挟むようにして華穂様が隣に座る。
なんだろう、この構図・・・・・。
ただでさえ主人と一緒に座るなんて恐れ多いのに、ましてや真ん中。
なんとなく両側から圧迫感を感じる。
「せっかくだからちゃーんと見てあげないとね。」
華穂様がテレビをつけると、大晦日恒例の豪華歌手達が男女に分かれて歌合戦をする番組が始まるところだった。
・・・・・・・・・あれ?これって今から4時間拘束?
「あの・・・華穂様。これを見ていたら準備が間に合いませんが・・・。」
流が0時前にこちらに来る予定なので少なくとも11時過ぎには準備を始めたい。
「大丈夫、一弥の出番は前半のトリだから。見てから準備しても十分間に合うよ。」
「でしたら、一弥の出番の時だけ呼んでいただければ・・・・。」
「ダメダメ。曲と曲の間の余興も見所なんだから。」
どうあっても離してくれる気は無さそうだ。
裕一郎様もニマニマ笑っているし諦めるしかない。
6年ぶりに見る歌合戦は色々と様変わりしていて興味深い。
昔見ていたころは、アニメキャラクターなんて出ていなかったし、メインの歌手が歌っている時に他の歌手が後ろで踊ったりすることもこんなにはなかった気がする。
一弥が最初に出てきたのはあるロック歌手のバックだった。
バックといっていいのか疑問になるほど前に出てはいるが。
メインの歌手と背中を合わせギターを激しく掻き鳴らす。
普通の音楽番組では見られない人気歌手ふたりのタッグに会場は大盛り上がりだ。
激しく動く一弥は本当に楽しそうで思わず微笑んでしまう。
そんな私を華穂様と裕一郎様がさらに微笑ましく眺めているのに私は全く気がつかなかった。
すみません、明日からちょっと更新ペース落ちます。
(もうすでに落ちてるけど)
詳しくは活動報告をお読みください。
ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします。




