139
華穂視点。
唯さんの憂鬱そうな顔に罪悪感がこみ上げてくる。
・・・・・なんかわたし、浮かれすぎてたかも。
自分が今とっても幸せだから、つい唯さんにも恋愛を押し付けちゃった。
もっと唯さんが何を考えてるか聞かなきゃいけなかったのに。
わたしだって自分の気持ちに気づくまで散々悩んだのに。
隼人くんから『女神』発言を聞いた時、恥ずかしかったし困惑したけど、嫌じゃなかった。
でも、それが『好き』ってことなのかわからなくて決めきれなくて辛かった。
きっと唯さんも今そんな状態だ。
流のことも一弥のことも嫌じゃないけど、わからない。
・・・・・相手があのふたりだし・・・・・。
唯さんに想いを寄せるふたりを思い出して、遠い目をしたくなる。
ふたりとも押しの強さは負けず劣らず、10年もさりげなく想ってくれてた空太や照れ屋の隼人くんなんかとは比べ物にならない。
なんかもう悩んでる時間すらくれない気がする。
押して押して押しまくられて気がついたら結婚してた・・・・・とか。
それがふたり・・・・・・。
・・・・・・・・・・なんか考えるのが怖くなってきた。
ふたりともいい人だし、わたしは唯さんの自由時間を作ることに専念しよう。
ガラッという音に振り返ると、空太が立ってた。
それだけでわたしの心臓が音を立てる。
さっき会ったばっかりなのに。この心臓はいつ落ち着くんだろう。
「ど、どうしたの?」
「照明器具終わったからこっち手伝いに来た。
危ないから俺がやる。」
こっちの気も知らずに普通に近づいてきた空太は、わたしが踏み台に乗って棚から下ろしていた食器たちを、台にも乗らずに普通に下ろしていく。
自分とは違う、高く、大きな脊中。
「では、私はシンクの掃除をしますので、華穂様が空太様から食器を受け取ってください。」
私から食器を受け取って作業台に並べていた唯さんは、そういうとあっという間に離れていってしまった。
同じ室内に唯さんはいるんだけど、なんだかふたりっきりになったような錯覚をして緊張する。
静かな空間に耐えられなくなって何か話そうと口を開く。
「あ、あのね!今日はお菓子を作ってきたの。」
「何作ってきたんだ?」
「スノーボールと生チョコ。」
「どっちも俺が好きなやつだ。今日のおやつの時間が楽しみだな。」
「うん、上手にできたから楽しみにしてて。」
「お前ももうちょい早く来てたらなー。今日の昼飯、俺が作ってたのに。」
「えぇぇぇ!?それ早く言ってよ。
知ってたらお昼食べずに来たのに!!」
いつもの会話をすると自然と心臓も落ち着いて空気が心地よくなっていく。
・・・・・・・やっぱり空太の隣が好き。
自分の気持ちが間違ってなかったんだと確信する。
会話をしながらでも作業はスムーズに進んでいく。
阿吽の呼吸・・・・・ってやつなのかな。
次に空太が何をするのかわかるし、空太にもわたしの次の行動がわかるみたい。
時折唯さんも交えて楽しく会話をしながら掃除を進めていく。
ちょうどよく調理室の掃除が終わったタイミングで山中先生がおやつの準備をしに来た。
冷蔵庫にいれていた生チョコとスノーボールを子供達一人一人のお皿に並べていく。
大皿に盛ると取り合いになってケンカしちゃうからダメなんだよね。
「うまそうだな。」
小皿に盛り付けられた白と黒のお菓子は見た目も良く、自画自賛だけど美味しそうに見える。
「あっ!」
小皿の上のスノーボールがひとつ空太の口の中に消えていった。
「せっかく盛り付けたのに。」
「これ、俺の皿にするからそれでいいだろ。
うん、やっぱうまいわ。」
空太の口の中でサクサク音を立てていたスノーボールがなくなっていく。
「ほら、早く盛り付けねーと、盛り付け終わる前に俺全部食い終わっちまうぞ。」
そういって空太は2個目のスノーボールを口に放り込んだ。
「もう!」
やっぱりプロだから空太は盛り付けが早い。
空太が並べていた生チョコはすべてのお皿にもう乗ってて、隣にスノーボールが来るのを待っていた。
・・・・・・・なんだかわたしと空太みたい。
空太はいつも一歩進んだところでわたしを待っててくれる。
負けず嫌いなわたしが追いついてこれるように、壁に当たった時はすぐ手を差し伸べられるように、ちょっとだけ離れた距離で見守ってくれる。
空太の気持ちを知った今だからこそわかる空太の優しさ。
・・・・・・・・・・今度は追いつく。
追いついたら空太に見守ってもらうんじゃなくて、わたしも空太の顔を見てずっと手をつないで並んで歩いていこう。
そう思いながら、生チョコに寄り添うようにスノーボールを置いた。
ブクマ、評価ありがとうございます!




