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朝9時。
私は『華穂様宛に荷物が届いた』という連絡で起こされた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
急いで準備して降りてきたロビーで、私の開いた口は塞がらなくなった。
薔薇、バラ、ばら、BARA・・・・・・
ロビーの扉が開かれた向こうでは、トラックから大量の真っ赤なバラが降ろされている最中だった。
数えられないぐらい大量のバラ。
100万本・・・・は流石にないだろうが、ついその歌を思い出した。
とりあえずロビーに入れてもらうが、その臭いがすごい。
もうここまで集まると香りではなく臭いだ。
バラの引き渡しが終わった業者が、伝票に受け取りのサインを求めてくる。
『送り主 槙嶋 流』
受け取った伝票を握り潰したくなった。
結局、贈られたバラはトラック3台に上り、一般家庭より遥かに広い高良田邸のロビーを埋め尽くした。
花市場の赤いバラ全て買い占めたのではなかろうかと思う量だ。
ロビーが騒がしいのを感じたのか裕一郎様様と華穂様も出てきて唖然としていた。華穂様に至っては臭いにむせている。
とにかく分散させねばと、全ての部屋にバラを飾るようにと、飾りきれなかった分はローズウォーターやポプリに加工するようお手伝いさんに頼んでから裕一郎様と華穂様、三人で食堂に避難した。
「華穂様、こちらがバラについていたメッセージカードです。」
メッセージカードの中を読んで、華穂様が固まっている・・・・。
「あの、これどうしたらいい・・・・・?」
おずおずとメッセージカードを渡されたので中を読んでみる。
『飾っておけ ー 流 ー』
・・・・・・・・・本当にどうしたらいいんでしょう。
私の横からカードを覗き込んでいる裕一郎様も微妙な顔だ。
「・・・・・とりあえず贈り物を貰ったんだしお礼状は書きなさい。」
そう言った裕一郎様は『昨日、煽りすぎたかなぁ』とぼやいていた。
うーん、華穂様に対する流の好感度がここまで高いとは予想外・・・・・。
これは好感度が一定値になると発生する流の個人イベント一回目だ。
ゲームの時は『100万本のバラなんてベタなイベントだなぁ』と思っていたが、実際体験してみると凄いインパクトだった。主に悪い方に。
ゲームではもちろん臭いなんてしないし、メッセージカードの内容もユーザーには知らされなかった。
ただ華穂様が突然大量のバラをもらって『お金持ちの感覚ってわかんない!』と今まで住んでた世界との違いを感じるというイベントだったのだ。
まさかこんな残念イベントだったとは・・・・・
正直知りたくなかった。
・・・・・・・・とりあえずバラが食堂まで届く前に、朝食を並べてその香りで鼻をリセットしよう。
そう思い厨房に連絡を入れた。
朝食を食べた後、華穂様は礼状を書くことにしたがなかなか筆が進まないようだった。
「うーん・・・・うーん・・・・・・」
「華穂様の素直な気持ちを表せばよろしいと思いますよ。」
「すごい臭いだった。正直迷惑ですって?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
・・・・・私も素直に書いたらそうなると思う。
「そうですね・・・・。先日のパーティー参加への感謝を綴ってから、
綺麗なバラがたくさん届いてとても驚きました。
屋敷中に飾ったので屋敷全体がバラの香りに包まれています。
あまりの多さに屋敷中に飾っても飾りきれないほどで、全て飾れなかったのが残念です。
いただいたバラに相応しい素敵な屋敷にしたいと思います。
・・・・・というような意味合いの文章でいかがでしょうか。」
我ながら苦しい。苦しいとは思うがこれ以上良い文章が思い浮かばない。
相手に不快感を与えずに『臭いがすごいです。量を考えてください。準備が必要なので、物をくれるならその前に連絡をください。』といったメッセージをこめたつもりだが・・・・・伝わらないだろうなぁ。
文面を考えるのを放棄した華穂様はあっさりと私の案を採用し、自分なりの言葉になおして礼状を書き上げた。
唯さんの文章が苦しいのは単に私の文章力不足のせいです。
本当はスマートに嫌味織り交ぜたかった・・・・・




