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一部、乱暴な言葉、児童虐待表現を含みますのでご注意ください。
「ふーん。」
私の言葉を聞いた一弥はまったく興味がなさそうな返事をした。
「ねぇ、唯ちゃん。
唯ちゃんの言う最低な人間の素の唯ちゃんと俺ってどっちが最低?」
・・・・・・・・・・・ん?
「なんでかわかんないけどさぁ、唯ちゃんはわかってるんだよね?
実は俺が女嫌いで女なんて頭空っぽなクズだと思ってるってこと。」
わかってはいたが改めて本人の口から出てくると顔を顰めてしまう。
一弥の歪みはまったく治っていない。
「別にバレるようなことした覚えないんだけどねぇ。
この間の記者会見まで世間にはちゃぁんと俺が意図した『フェミニストな女好き』で通ってたし。
で、唯ちゃんから見た俺の本性って最低じゃない?」
「そう・・・ね・・・。」
さすがにその言葉を否定する根拠は持ち合わせていない。
一弥の闇は幼少期の家庭環境に由来する。
父親はエリートサラリーマン、母親は父親の勤める会社の社長令嬢。
愛のない政略結婚の末に生まれてきたのが一弥だ。
そんな家庭は冷え切っており、父親はほとんど家に戻らず仕事漬け。
さらに酷いのが母親だ。
母親は極度の男狂いで、一弥がいるにもかかわらず何人もの男を取っ替え引っ替え自宅に連れ込んだ。
もともと愛されていなかった一弥だが、男が家に来た時はさらに酷く、母親と男との行為を見せつけられたり、狭いところに閉じこめられたり、時には殴られることもあった。
こうして育った結果、一弥はすっかり女性不信になった。
不信というより、憎悪に近いのかもしれない。
女嫌いなのに一弥が女好きのフェミニストを演じているのは、自分の欲望もあるが女という生き物に復讐をするためだ。
自分の言葉に簡単に踊らされる女を心の中でせせら嗤う。
利用するだけ利用して相手にバレないようにスマートに別れるように仕向ける。
全ては一弥の手のひらの上で。
そうして女を操ることで溜飲を下げているのだ。
「だったらいいじゃん。
最低と最低同士、お似合いでしょう?
それにさぁ、自分は最低だって自覚がある分マシじゃない?
世の中には外面だけ綺麗で一皮剥いたらウジ虫みたいな連中がゴマンといて、しかもそういう奴らほど自分が一番素晴らしいとか思ってるからね。
笑っちゃうね。」
皮肉げに一弥が嗤う。
「どーせ唯ちゃんの最低なんて『子供の頃に万引きした』とかその程度なんでしょう?
俺自身や俺が見てきた奴らとは比べ物にならない。
そんなんで俺が引き下がると思ったら大間違いだね。」
「・・・・・・万引きなんてしたことないし。」
確かに今まで一弥の近くにいた人間よりはマシかもしれないが、なんだか深刻に悩んでいたのを馬鹿にされたみたいでちょっとムッとしてしまう。
ていうか、万引きってなんだ万引きって。
「それにさぁ、何悩んでるのか知らないけど、唯ちゃん言ってたじゃん。ダメなら変われって。
別に俺はそのままの唯ちゃんで十分だけど、嫌なら変われば?」
「変われたら苦労しないし・・・・。」
どうやったら本気で男の人を好きになれるのか。
付き合っていた時は本気で好きだと思っていたのだ。
恋が終わってからでないと自分が薄情でないかどうかはわからない。
一弥の女性不信を治すのも簡単ではない。
表面だけ取り繕うのならば今と一緒だ。
・・・・・・・・そう考えるとかなり無理な要求したな私。
「変われないなら自分を許すしかないんじゃないの?
唯ちゃんが許せないんだったら、代わりに俺が許すよ。」
「・・・・・・私の本性も知らないのに許すの?」
「許す。」
一弥の言葉がじんわり胸に広がっていく。
「唯ちゃんの本性なんて顔を見たらわかるよ。」
いつかのようにコツンと額を合わされる。
あの時のように私はまた動けない。
でも、あの時と違って体はとてもあたたかかった。
「綺麗な 澄んだ まっすぐな瞳。
中身が腐ってたらそんな瞳はできないよ。
その瞳を俺は好きになったんだから。」
くすりと一弥が笑った。
「そんなに大きく見開いたら目がこぼれちゃうよ。
ねえ唯ちゃん、許すから俺に見せてよ。
本当の唯ちゃんを。
変わりたいなら手伝うから。
夢の中まで泣きながら謝らずにすむように。」
熱い額を離して、そのままの一弥に抱きしめられる。
熱い抱擁のままぐらりと態勢が傾ぐ。
背中にベッドの柔らかさを感じると同時に照明の眩しさに目が眩んだ。
ブクマありがとうございます。
すみません、所用のためおそらく明日は更新できません。
可能であれば拍手御礼話を交換しようと思っています。
まだ目を通してない方はお早めにお目通しください。
流と宗純どっちにしようかな・・・・・。




