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キリがいいのでちょっと短めです。

大事なことを話し終えたところで、一弥も寝ているし帰ろうという流れになった。

隼人は午後から練習らしい。



そこでハタと気付く。


鍵 が し め ら れ な い !


いくらなんでも隼人だって合鍵はもっていない。

家中漁れば何処からか出てくるだろうが、使った鍵を安全に返す術がない。

病人、ましてや芸能人の家の鍵を開けっぱなししておくわけにいかない。


はぁ・・・・。



「隼人様、私が残りますので先にお帰りください。」


「えっ・・・いやっ・・・でもっ・・・」



先ほどの話を聞いた後で私を残して帰るのは後味が悪いだろうが仕方ない。

隼人の仕事に穴をあけるわけにはいかない。


「華穂様なら理解してくださいますので大丈夫です。」


まさかクラブに『友人の見舞いに来て鍵が閉められないので帰れなくなりました』とは言えない。

そんなことを言えば『起こして鍵を閉めてもらえ』と言われるのがオチだ。


申し訳なさそうに出ていく隼人を見送って、私は鍵をしっかり閉めた。





華穂様に連絡をすると思った通りあっさりと許可が出た。

むしろ『何時になってもいいから!』という言葉付きで、お嬢様のそばで仕事をするためにいる執事としては悲しいものがある。


一弥が起きてくるまでぼーっとしているのももったいないので、掃除と洗濯をすることにした。

バスルームに行った時に洗濯機の前に山積みにされている洗濯物を見てしまったのだ。

リビングも散らかってこそいないものの、忙しくて掃除ができていないのか部屋の隅に埃がたまっていた。

他の部屋はともかく、足を踏み入れた場所くらい綺麗にしておいてもプライバシー問題はないだろう。

そうしてキッチン・リビング・バスルーム・廊下・玄関と徹底的に掃除を終える頃には3時間が過ぎていた。


一弥はまだ起きてこない。


広い家で動いているのは私ひとり。

流の家でも感じた寂しさを感じる。

ほとんど帰ってきていないような生活感のない家。


一弥が女嫌いなのに女の肌を求めるのはこの寂しさを埋めるためもあるのではないだろうか。

無自覚な寂しがり屋。


この家が一弥の心そのものな気がして、無性に一弥の顔が見たくなり私は寝室に向かった。




ベッドに腰掛けぐっすりと眠っている一弥の額に手を当てる。

熱はまだ高いようだ。この時間でこれならば夜にはもっと上がるだろう。

少しでも熱が下がるように首回りに濡れたタオルを巻く。


ぼんやりと一弥の顔を見る。


綺麗な人形のような顔。


この顔と声と財力に群がってくる蝶たちが彼の目にはどんなに醜悪にうつっているのだろう。

そんな彼女たちと私は一弥の目にどう違って見えるのだろう。

流の目にも・・・・・。



『ドキドキしたら恋なの?わかんないよ。』



そう言って辛そうな顔をしていた華穂様を思い出す。


みんなどうやって自分の特別を見つけるのだろう。


前の恋は付き合っていくうちに特別になった。

付き合ってみないとわからないものなのか。

でも、付き合う相手は付き合う前から私のことを自分にとっての特別だと感じていたはずだ。

ニブいから特別が見つけられないのか、それともまだ特別に出会っていないだけなのか。


時折考えることがある。


一弥も流もその他の攻略対象者も、誰もが認めるいわゆる“優良物件”だ。

多くの人々がその魅力に心奪われる。

特に隼人なんて性格もいいし、結婚したらとても大切にしてくれるだろう。


そんな素敵な人々に心が動かない私は欠陥品なのではないだろうか。


華穂様は私に好きな人と幸せになって欲しいと言った。


私はこれから自分だけの特別に気がつけるだろうか。




そんな答えの出ない問題をぐるぐる考えていたら、私の意識はいつの間にかゆっくりと闇の中に落ちていった。

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