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まさかのまさかで隼人は本当にトイレにいた。
出てきてもらって一弥の態勢を整えてからふたりでリビングに戻る。
「いくら私に看病させたいからといって本当にトイレに篭ったりなさらなくても・・・・・。
さすがにあの状況で戻ってきた隼人様に代われとはいいません。」
「あははは・・・・すみません・・・・・・・」
隼人が困ったように笑う。
「トイレに行きたかったのも本当なんですけど、やっぱりどうしても唯さんに一弥さんのそばにいて欲しくって。
病気の時って心細いじゃないですか。
そんな時に好きな人がそばにいてくれたら俺だったら嬉しいなぁっ・・・・て思ったんです。」
はにかむように笑う隼人が可愛い。
「隼人様は優しいですね。」
「そんなことないです。
・・・・・・華穂さんと仲良くなれるように一弥さん、たくさん助けてくれたから。
だから俺も少しでも恩返ししたいっス。
華穂さんと両想いにはなれませんでしたけど、一弥さんや華穂さんのおかげで、こんな俺でもちゃんと女の子を好きになれるんだって自信がつきました。
だからとっても感謝してるんです。
もちろん唯さんにも。」
強く・・・・・なったなぁ。
初めて会ってからまだ1年も経っていない。
そんな短い間でも、華穂様も隼人も宗純も流も変わった。
私は変わっただろうか?
流に撫でられながらひたすら涙した。
普段の私からは考えられない。
しかしそれは変化だったのだろうか?
あの時は唯《私》に戻った勢いでいろいろ行動できた。
それはそれで良かったと思う。
でも、あの時の勢いが今もあるかと言われれば疑問が残る。
結局私は華穂様と出会ってから成長しているのだろうか。
私が物思いに耽っている間に、隼人は隼人でなにか考えていたようで、先ほどから口を開いては閉じ開いては閉じを繰り返している。
「あの・・・・俺が聞いちゃいけないとは思うんですけど・・・その・・・」
隼人が言いにくそうに口を開く。
「・・・・・唯さんは一弥さんが嫌いですか?」
「・・・・・嫌っているように見えますか?」
「・・・・・嫌ってるというか・・・・一弥さんにだけ冷たい気がします。」
メッセージでいつも4人でやりとりしているとはいえ、全員集まって会ったのはライブとテーマパークで2回。
華穂様を抜いた今日を合わせてもやっと3回目。
紆余曲折を経て出来上がった微妙な距離感は伝わらないのかもしれない。
「嫌いではありません。・・・・ですが、近づかれたら困るのです。」
隼人は困惑したような顔をしている。
「話してないのでご存じないとは思いますが、私は一弥に『友人』だと伝えてあるのです。
ただ一弥はそれに納得がいかないようで・・・・・・。
胸中はどうであれ、本当は隼人様と華穂様のような友人関係を築くことが出来れば良かったのですが。
・・・・・・隼人様は強いですね。」
私の言葉に隼人はがっくりと脱力した。
「なぁんだ。
俺たちふたりともフラれてたんスね。
一弥さんだけでも・・・・って思ってたんですけど。
・・・・・・・唯さんにも他に好きな人が?」
「そういうわけではないのですが・・・・・。」
「じゃあどうしてですか?
男の俺から見ても一弥さんかっこいいし、そんな人に好かれてるなんてすごく羨ましいことだと思うんですけど・・・・・。」
なかなか諦められないらしい隼人にクスリと笑みが漏れる。
自分の告白の時はあんなにすっきり退いたのに。
本当に優しい人だ。
「私がズルをしているからです。」
「ズル?」
「はい。一弥がダメだから応えられないわけではなく、私自身の問題なのです。」
優しい隼人に嘘をついたり、適当に誤魔化したりしたくなかった。
・・・・・・それに本当は少しでいいから誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「その問題が片付いたら一弥さんとのことを考えてくれますか?」
私は静かに首をふる。
「知ってしまったことを忘れることはできません。」
「そうですか・・・・・。」
残念そうに笑う隼人に少しだけ胸が痛む。
「なんか・・・すみません。本当は俺なんかに話す必要のないことなのにいっぱい聞いちゃって。
それに今日のこともすみません。
俺・・・一弥さんが喜ぶだろうって勝手に判断して、唯さんの気持ちを考えもしなくて・・・・。」
「いえ、隼人様のようなご友人がいて一弥は幸せですね。
それに一弥は認めませんが、私も一応一弥の友人のつもりですから見舞いに来るのもやぶさかではありません。」
しょぼくれてしまった隼人に笑いかけると、隼人も弱々しいながら笑い返してくれる。
私もこんな友人が欲しいなと一弥と華穂様を羨ましく思った。
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