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すみません、短いです・・・・。
振り返って見ると、一弥は幾分すっきりした顔でベッドに横たわっていた。
また汗だくにならないように掛けていた掛け布団を一枚減らす。
「疲れたかもしれないけど、薬飲まないといけないからご飯食べて。」
再び隼人に支えられて起き上がる。
「それじゃ隼人様、これを食べさせ」
私の言葉を遮るように勢い込んで隼人が言葉を発する。
「いえ!それは是非唯さんが!!!」
・・・・・・・・・・・・・。
「私である必要はないと思いますが・・・・。」
「俺、トイレに行きたくなったんでお願いします!!」
・・・・・本当か嘘か、かなり自然な言い訳だ。
「それでしたら、隼人様が戻られてから・・・・」
「一弥さん早く寝かせた方がいいし、お願いします!!!」
・・・・・・・・・・・・・・はぁ。
ここまで言われて断る方が不自然だ。
渋々隼人と場所を変わってベッドに腰掛ける。
『じゃあ後お願いします』にこやかに去っていく隼人を恨めしげに見てしまう。
すると、なんだかもの言いたげな視線を頬に感じた。
そんなにお腹空いてるのか。
「ごめんごめん。はい、どーぞ。」
時間がたってぬるくなってしまったおかゆを一弥の口に運ぶ。
体が暑いと言っていたしぬるいくらいが胃にも優しいだろう。
もぐもぐと咀嚼したものが喉を通っていくのを確認してから次を掬う。
口元に運ばれたスプーンに向かって一弥がのっそりと口をひらく。
・・・・・・・・・・・・・なんというか・・・・。
いつもはツンツンと上を向いて遊ばせられている髪が、今は頭の形に沿ってさらりと流れている姿と熱で赤い頬、ぼんやりとした目。
いつもの余裕ぶった態度のない一弥は普段よりかなり幼く見える。
そんな一弥の口に黙々とお粥や野菜スープを運ぶ。
なんだか子供にご飯を食べさせているか、鳥かなにかを餌付けしているような気分になってきた。
・・・・・・・・・・・かわいい。
一弥がきいたら顔をしかめそうな感想が浮かんでくる。
病人相手に酷いかもしれないがつい“いつもこんなに素直ならいいのに”とおもってしまう。
一弥はいつも余裕たっぷりで何を考えているかわからない。
だからつい私も身構えてしまって対応が硬くなる。
『今度は何を考えている?』
『これ以上踏み込ませないにはどうしたらいい?』
一弥に会う時には常に漂う緊張感。
それが私を一弥から遠ざける。
付かず離れずの距離の判別を難しくする。
これさえなければ、華穂様や隼人が変に気を回さなくてもちゃんと見舞いにもくるし、看病もするのに。
・・・・・・・・・友人として。
黙々と食べていた一弥の口を開くペースがだんだんと遅くなっていく。
疲れが溜まってきたようだ。
「これくらいにしておきましょう。
薬と水持ってくるからちょっと待ってて。」
皿とスプーンを下げて水と薬を持って寝室に戻る。
扉を開けるとベッドの背にもたれかかったまま一弥が眠っているのが見えた。
戻るまで意識が保たなかったらしい。
布団から半身出て暑さが薄らいだのか、荒い息も収まり小さな寝息を立てている。
あらま・・・・・・
下手に起こすよりこのまま寝かせておいた方がいいだろう。
風邪への最大の治療は休息だ。
とはいっても、上半身起こしたまま寝ては風邪が悪化する。
ベッドにきちんと寝かせたいが、さすがに私が力で動かすことは難しい。
トイレに行くといった隼人はどこへいったのだろう。
いくらなんでも遅すぎだ。
私に看病させるためとはいえ、まさかずっとトイレに籠っているのだろうか?
私は隼人を探すべく寝室を後にした。




