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えー、突然ですがごく微量の腐女子成分が発生しておりますのでご注意ください。
キッチンはしばらく使われていなかったのか少し埃を被っていた。
掛けられていた布巾で簡単に掃除をし、持ってきた食材を袋から出す。
キッチンには見事に何もなかった。
調理器具は愚か、塩胡椒すらない。
大きな冷蔵庫にはペットボトル数本と アイスクリームが入っているだけだった。
まあ、こんなものかも。
使わないのに全て揃っていた流の家の方がおかしいのだ。
こういう状態を予想して持ってきていたペティナイフや鍋、紙皿も袋から出す。
メニューはたまご粥と野菜スープ。
食材は全て切ってきていたので鍋で煮るだけだ。
程なくして出来上がった料理を持って寝室に行く。
軽くノックをしてから扉を開け、目に飛び込んできた光景に危うく皿を落としそうになった。
隼人がせっせと一弥の額の汗を拭いてあげているのだが、なんか・・・そう・・・その・・・イケない光景に見えてしまうのだ。
もちろん本人達にそのつもりがないのはわかっている。
わかっているが脳が勝手に・・・・
そんな趣味なかった筈なのにイケメンパワー怖い・・・・。
若干目を逸らしながら部屋に入る。
「具合は?」
「熱が38.9℃もあってかなり高いみたいです。
さっきから拭いてるんですけどなかなか引かなくて・・・・。」
話している間にも一弥の額はじんわりと濡れてきていた。
赤い顔をして、眠ってはいないようだが目をつぶって荒い息をしている。
ベッドの横から布団の中にズボッと腕をつっこむ。
「うわっ、唯さん何をっ!」
隣で隼人が騒いでいるが気にしない。
布団の中はかなり暑い上に蒸れている。
「一弥、暑い?それとも寒気がする?」
「・・・・あ・・つい・・・」
そうなると・・・・
「隼人様、クローゼットから一弥の着替えを肌着まで全部準備してください。
私はお湯を準備してきますので。」
バスルームでかなり熱めのお湯を洗面器に準備し、フェイスタオルを多めに拝借する。
私が寝室に戻ると隼人はすでに戻ってきていて一弥の枕元に待機していた。
「隼人様は一弥の服を脱がせて全身このタオルで拭いてあげてください。
タオルはかなり熱めになってますが、ぬるく感じたらすぐに交換してください。
体が冷えたらいけませんので、一気に脱がさずに拭く部分だけ脱がせてその都度着替えさせましょう。
一弥、起きれる?」
怠そうに身を起こそうと動く一弥の背中に、隼人がさっと腕を入れてサポートする。
洗面器に入れたタオルを絞っているとファスナーを下す音が後ろから聞こえてきた。
タオルを渡すために振り向く。
・・・・・・・・・これ写真に撮って売れないかな。
寝室に入った時の比ではない光景に一瞬めまいがする。
支えるために密着した体と拭くために大きくはだけた胸。
そこから覗く筋肉は程よく鍛えられており汗のせいで光って見える。
ダメだ。なんだかこれ以上見ていたら色々戻れなくなる気がする。
それに一弥にだってプライバシーがある。必要もないのに裸をジロジロ見てはいけない。
タオルを渡すとくるりと後ろを向く。
本当は退室した方がいいのだろうが、一弥の体を支えたまま隼人ひとりでタオルを替えるのは難しい。
「隼人様、私は後ろを向いておりますので、ぬるくなったタオルはこちらに投げてください。」
「なぁに・・・ゆいちゃ・・・・俺の裸・・・意識して・・・の?」
荒い息で一弥が馬鹿なことを言っている。
・・・・・間違ってないところがムカつく。
「ヘロヘロの一弥なんて珍しいから、下で張ってた記者に売り渡したらいくらになるかなって考えてた。
あんまり馬鹿なこと言ってると本当に売るから黙ってなさい。」
「あはは・・・こわ・・」
私と一弥が馬鹿なやり取りをしていた間も、隼人はしっかり仕事をしていたらしく、後ろから遠慮がちにタオルが差し出される。
「あの・・・、唯さん、タオルお願いします。」
肩越しに伸びてきた手から使用済みのタオルを受け取り、絞ったばかりのものと交換する。
衣擦れの音と時折入る『一弥さん、脱がすんでちょっとここ動かしてください』や『拭くんで布団はがしますね。』という隼人の言葉にドキドキする。
視線の先に見るべきものがないため、余計に聴覚が強調されている気がする。
・・・・・・・・これでは立派な変態である。
自分がやましい気持ちでいるせいか時間が過ぎるのが遅い。
何度時計を見てもちっとも針は進まず、必要以上にタオルを洗面器で洗って気を紛らわす。
拷問のような時間は隼人の『お疲れ様でした。終わりました。』という言葉で終わりを告げた。
時間にして15分。
・・・・・・・・・・・長かった。
今まで体験したどの15分より長かった!!
私はホッとして後ろを振り返った。




