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『最近、ほんっと聴き惚れちゃうよね〜。』


『ほんとほんと!前からセクシーだったけどなんかより色っぽくなったというか腰に来るっていうか・・・・・・』


『あれは男でもマジで惚れる!』


『だなぁ。今まで信者って女か男でもよっぽどマニアックな奴かと思ってたけど、ちょっと気持ちがわかってきたわ。』



年の瀬が迫ってきた今日この頃。

テレビでは音楽番組の特番が数日おきに流されている。


たくさんいる出演者の中でも異彩を放っていると話題の人物への街の人の声だ。



『誰が聴いても納得すると思うんですが皇さんは最近本当に色っぽくて、先日収録された歌番組ではなんと皇さんの歌を聴いて観客席の女性たちがバタバタと倒れるなんてハプニングもあったんです。』


『いや〜、その気持ちもわかりますよ。テレビ越しでもあれだけ凄いんですから、その場にいたらなんて想像しただけで怖い気がします。この様子だと彼女さんと順調なんでしょうねぇ。』



適当なことを言うコメンテーターの発言をテレビを消すことで遮る。

音楽番組が増えるにつれ、テレビで一弥を見る機会が増えた。

華穂様は歌番組が好きだし、親切心なのかわざわざ一弥の登場シーンになると呼んでくれる。

・・・・・・・・・・・面白がれらてるわけじゃないと信じたい。



食事から一方的に帰ってきてから、私はまだ一弥と連絡を取っていない。

『また』の言葉をいつにするのか、私はまだ迷っている。









「唯さーん。」



テレビを見ていた華穂様から声がかかる。

どうやら一弥の出番が来たようだ。今日あっているのは5時間生放送の歌番組だ。華穂様の座るソファーの後ろに立ってテレビを見る。


・・・・・・・・・ん?


思わず内心眉を顰める。なんだか・・・・・・



「なんか一弥、顔色が悪くない?」


「私にもそう見えます。」



いつもより顔が白く見える。

ホールなので空調が効いているせいかもしれないが、真冬だというのに額にびっしり汗が浮いている。

画面上はそう見えるが、歌声に揺らぎはない。

2曲歌い終えると一弥は手を振りながらステージを降りていった。






「一弥が倒れた!?」


その連絡が隼人から来たのは、華穂様が朝の一回目のレッスンの予習をしている時だった。

隼人は振られた後も、友人として以前と変わらない態度で接してくれている。



『昨日の歌番組で具合が悪そうに見えたから電話したんスけど、なんか熱が出て寝込んでるって・・・・。

だから、その、えっと・・・・・3人でお見舞いに行けないかと・・・・・・・』



スピーカーホン状態で隼人と話している華穂様がチラチラとこちらを伺ってくる。


なんか色々な気遣いが居た堪れない。



「ちょっと予定確認してから折り返すね。」



一旦電話を切ると華穂様は『どうするの?』という顔を向けてきた。



「華穂様は本日スケジュールが詰まっておりますので、残念ですが皇様のお見舞いの時間はとれません。」


「あー、うん、そうだよね・・・・・」



無理だと告げたのにまだ華穂様はこちらの様子を伺っている。ため息を付きたいのを堪えて続きを話す。



「私が華穂様の代理として隼人様と一緒に見舞いに行って参ります。」


「うん、それがいいと思う。」



華穂様がにっこり笑った。

ようはそういうことである。隼人が3人で行こうという言葉を言い淀んだのも3人である必要がないからだ。

大方、一弥本人が私を連れてこいとでも言ったのだろう。

断ると利用されている隼人が可哀想だから今回は行くとしよう。






待ち合わせ場所で隼人に声をかけると隼人はポカンとした顔で固まっていた。

・・・・・・まあ、無理もない。自分でも芸能人張りの変装だと思う。


顔の半分を覆うような大きなサングラスにきつめに巻いた髪。スミレ色のコートにブラックのパンツとヒールが10cmはあるパンプス。

知り合いでさえおそらくすぐに私だと気づかないであろう格好だ。



「あ、あの・・・・・?」


あまりの変わりっぷりに隼人はなんと言っていいかわからないようだった。


「申し訳ございません、隼人様。

自宅に行く以上念には念をと思いまして・・・・・・。」



以前の騒ぎで私はすっかりマスコミ恐怖症だ。



「そういうことで、隼人様もしっかり協力してくださいね。」



にっこり笑った私に、隼人はさらに困惑顔になった。




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