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「はい、どーぞ。」


「ありがとうございます。」



ソファーに座った私の前に紅茶が置かれる。


あの後、あまりのことに流が帰って行く姿をふたりで呆然と見ていたら、先に我に返った華穂様に問答無用で部屋に連れて行かれた。

『明日の朝まで私の執事はおやすみ!』と言われて、こうして本来は私が出すべきお茶を出してくださっている。



はぁ・・・・・、どこで間違ったんだろう。

流は上手くいってると思っていたのに。


この部屋で『自分のニブさとバカさに嫌気がさして』と泣いていた華穂様のことを思い出す。

私も華穂様に負けず劣らずニブかったわけだ。華穂様にツッコんでいる場合じゃなかった。

思い返してみれば空太の名前を呼んだ時だって、一弥の報道を受けて流が乗り込んできた時だって兆候はあったわけだ。

私が全く気付いていなかっただけで。

何が『華穂様に勘違いされる』だ。勘違いしていたのは私だ。

あー、どうしよう・・・・・・。



思い悩んでいるとクスリと笑う声が聞こえた。



「唯さんでもそんな顔するんだね。」



『そんな顔』


流にも言われたが、私は今どんな顔をしているのだろう。



「私、そんなに変な顔してますか?」


「変っていうか・・・・・珍しい感じ?

いつも唯さんってかっこいいんだけど、なんだか恋する乙女でとっても可愛く見える。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「恋する乙女ってこんなに暗く悩むものでしたっけ・・・・・?」



もっとドキドキワクワクするものでは?

というかそれ以前に私は流に恋をしていない・・・・・・はず。



「え?暗くなってるの?なんかわたしからは困るけど嫌ってわけじゃないように見えるよ?」



・・・・・・・・・・・・・まあ、嫌ではない。

流は傍若無人の俺様男だが本質は優しく思いやりのある尊敬できる人間だと思う。


だからといって結婚したいかといわれれば話は別だ。

裕一郎様だって優しいし尊敬できるが結婚相手として見ているわけではない。



「悩みへの答えは出そう?」


「・・・・・・難しそうです。」



流にどうやって結婚する気はないと伝えるか・・・・・。

・・・・・・そもそもどうして私は流の家でそう言えなかった?



「だったら考えなくていいんじゃない?

いつまでって言われたわけでもないんだから先送りにしたらいいんだよ。


・・・・・・って、前に唯さんが言ってた。」



・・・・・確かに言いました。



「あとは『とりあえず付き合ってみた』っても言ってた。

・・・・・・唯さんは嫌じゃないのになんで断ること前提に悩んでるの?」



・・・・・・・・・・・・・・。



「結婚は確かに急すぎだけど、嫌じゃないなら付き合ってもいいんじゃない?

仕事のことが気になるなら私からお父さんにお願いするから。」


「・・・・・華穂様は私に流と付き合って欲しいんですか?」



どうしてそんなに断るのを止めようとするのだろう。



「流とっていうか、一弥でもいいんだけど、唯さんは誰かと付き合って幸せになって欲しいなぁって。


唯さんが執事の仕事に誇りを持ってることは十分わかってるし、 仕事に生きる人生だってありだと思う。

恋愛だけが幸せじゃないっていうのもわかってるんだけど、もったいないなぁとおもって。


だって、私がもし男だったら絶対唯さんのこと好きになるもん。

そんな唯さんを私だけで独占してるのは申し訳ないし、流や一弥の気持ちも少しはわかるから可哀想だなぁって。」



華穂様はおかしそうに笑う。



「わたしがここに来たばっかりの時の目標、教えるね。


『唯さんの恋人を見つけて、唯さんと恋人がふたりの時間を取れるようにしっかりマナーや勉強を身につけること。』


自分でも最初の頃よりかなり良くなったと思うんだけど、まだ足りない?」



言いながら笑う華穂様は自信に満ち溢れていて少しも足りないと思っている様子はない。

・・・・・・本当に立派になられた。



華穂様は自分の気持ちに向き合っている。

華穂様に偉そうなことを言った私もしっかり向き合わなければいけないのかもしれない。

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